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大阪地方裁判所 平成5年(ワ)9666号 判決 1996年12月25日

甲事件原告(以下「原告」という。)

岩井金属労働組合

右代表者執行委員長

井手窪啓一

甲事件原告(以下「原告」という。)

井手窪啓一

甲事件原告(以下「原告」という。)

東條裕彦

甲事件原告兼乙事件被告(以下「原告」という。)

塚口善朗

右原告ら訴訟代理人弁護士

井上英昭

幸長裕美

在間秀和

同(ただし、原告塚口善朗については甲事件のみ)

桜井健雄

甲事件被告兼乙事件原告(以下「被告」という。)

岩井金属工業株式会社

右代表者代表取締役

広沢清

甲事件被告(以下「被告」という。)

広沢清

甲事件被告(以下「被告」という。)

岩井孝雄

甲事件被告(以下「被告」という。)

玉置厚

甲事件被告(以下「被告」という。)

安藤文治

甲事件被告(以下「被告」という。)

勝浦信一

右被告ら訴訟代理人弁護士

中村善胤

右被告岩井金属株(ママ)式会社訴訟代理人弁護士

坂東司朗

池田紳

主文

一  原告塚口善朗が被告岩井金属工業株式会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告岩井金属工業株式会社は、原告塚口善朗に対し、平成五年七月二一日以降、毎月二六日限り一か月一三万二五四〇円及び右金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

三  被告らは、原告岩井金属労働組合に対し、連帯して、五五〇万円及びこれに対する被告岩井金属工業株式会社、被告玉置厚及び被告勝浦信一は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢清及び被告岩井孝雄は同月三一日から、被告安藤文治は同年一一月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告岩井金属工業株式会社及び被告広沢清は、原告井手窪啓一及び原告東條裕彦に対し、連帯して、各一〇〇万円及びこれに対する被告岩井金属工業株式会社は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢清は同月三一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告岩井金属工業株式会社、被告広沢清及び被告勝浦信一は、原告塚口善朗に対し、連帯して、一二〇万円及びこれに対する被告岩井金属工業株式会社及び被告勝浦信一は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢清は同月三一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

六  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

七  被告岩井金属工業株式会社の原告塚口善朗に対する請求を棄却する。

八  訴訟費用は、これを五分し、その一を被告らの、その余を原告らの負担とする。

九  この判決は、第二項ないし第五項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  甲事件

1  被告らは、原告岩井金属労働組合(以下「原告組合」という。)に対し、連帯して、二三三六万二九〇〇円及びこれに対する被告岩井金属工業株式会社(以下「被告会社」という。)、被告玉置厚(以下「被告玉置」という。)及び被告勝浦信一(以下「被告勝浦」という。)は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢清(以下「被告広沢」という。)及び被告岩井孝雄(以下「被告岩井」という。)は同月三一日から、被告安藤文治(以下「被告安藤」という。)は同年一一月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告会社及び被告広沢は、原告井手窪啓一(以下「原告井手窪」という。)及び原告東條裕彦(以下「原告東條」という。)に対し、連帯して、各五〇〇万円及びこれに対する被告会社は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢は同月三一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  原告塚口善朗(以下「原告塚口」という。)が被告会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

4  被告会社は、原告塚口に対し、平成五年七月二一日以降、毎月二六日限り一か月一四万三〇一一円、毎年七月末日限り二一万三五〇七円、毎年一二月末日限り二五万一二六四円並びに各金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

5  被告会社、被告広沢及び被告勝浦は、原告塚口に対し、連帯して、五〇〇万円及びこれに対する被告会社及び被告勝浦は平成五年一〇月三〇日から、被告広沢は同月三一日から、支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  乙事件

原告塚口は、被告会社に対し、別紙<略>物件目録記載の建物部分を明け渡せ。

第二事案の概要

本件は、原告塚口の解雇が無効であるとして、同原告が被告会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあることの確認並びに同原告に対する解雇後の賃金及び一時金の支払を求めるととともに、原告らが、被告会社による原告組合及び組合員である原告ら個人に対する一連の行為が不法行為を構成するとして、被告会社並びに被告会社代表者、取締役及び管理職らに対し、不法行為に基づく損害賠償を求め(甲事件)、被告会社が、原告塚口に対し、解雇により従業員の地位を失ったとして、社員寮の明渡しを求めた(乙事件)事案である。

(甲事件)

一  原告らの主張(請求原因)

1 当事者

(一) 被告会社は、肩書地に本店を置き、金属プレス板金溶接加工、金属製品製造等を目的とする株式会社であり、その従業員は平成二年六月当時は二〇〇名を超えていたが、平成五年一〇月現在約一三〇名であった。

被告広沢は、平成二年一〇月、被告会社を買収し、以後その代表取締役の地位にある者である。被告岩井は、昭和三七年から被告会社の取締役副社長である。被告玉置は、被告会社の製造部課長である。被告安藤は、被告会社の製造部係長である。被告勝浦は、被告会社の技術部係長である。

(二) 原告組合は、平成二年六月六日、被告会社において、六〇名の従業員らによって結成された労働組合であり、労働組合規約を有し、執行委員長を代表者と定めた法人格なき社団であり、平成五年二月一二日、大阪府地方労働委員会(以下「大阪地労委」という。)により資格審査を受けている。原告組合は、一時は一〇〇名を超える組合員を擁したが、平成五年一〇月現在の組合員数は六名である。

(三) 原告井手窪は、昭和五八年五月被告会社に雇用され、第一溶接部門において溶接工として勤務してきた者であり、原告組合結成当時から同組合の執行委員長である。

原告東條は、昭和六〇年三月被告会社に雇用され、第一機械部門においてプレス工として勤務してきた者であり、原告組合結成当時から同組合の執行委員青年部長である。

原告塚口は、平成元年七月、被告会社に雇用され、第一機械部門においてプレス工として勤務してきた者であり、平成二年九月二五日原告組合に加入した。

2 原告組合の結成と被告広沢が代表取締役に就任する前の労使関係

被告会社においては、従来労働組合が存在せず、被告会社が組織した評議員会という組織があるのみであったが、平成二年六月六日、六〇名の従業員により原告組合が結成され、原告井手窪が執行委員長となった。

原告組合結成当時の被告会社の代表者は岩井正雄(被告岩井の兄、以下「岩井前社長」という。)であったが、組合掲示板の設置、会社食堂の原告組合による利用、就業時間外の会社施設内での組合活動の保障等の事項が労働協約として協定化され、平成二年の夏季一時金も原告組合と被告会社の交渉によって円満に解決するなど、原告組合結成当初の労使関係は極めて良好であった。

3 被告広沢の代表取締役への就任と原告組合に対する対応の変化

平成二年一〇月三日頃、被告広沢が被告会社の経営権を掌握し、代表取締役に就任すると、同人は、同月四日、原告井手窪及び原告組合副委員長奥野信一(以下「奥野副委員長」という。)に対し、「組合を解散しろ。」「いやならここにおれんようになるし、就職もできんようにしてやる。」「俺が言っていることは不当労働行為だ。地労委でも裁判所でも訴えてみろ。謝ってまたやったらいいんだ。」等と恫喝した。

さらに、同月五日に開催された新社長の就任披露パーティにおいても、被告広沢は、集まった従業員に対し、原告組合に対する露骨な嫌悪感を示した。

原告組合は、これに対し、同月一一日、組合ビラにより、当たり前の労使関係を作っていこうと訴えたところ、被告会社の淵上総務部次長(以下「淵上次長」という。)は、同日、原告組合に対し、第一機械部門の作業場にある組合掲示板を撤去するよう通告した。

4 被告会社による原告組合潰しの不法行為の経緯

(一) 原告井手窪の不当解雇

平成二年一〇月一三日、原告井手窪は、「組合としては撤去を含めて柔軟に対応する用意があります。団体交渉での話合いを求めています。しかし、一方的に撤去されるようなことがあれば不当労働行為であり、そんなことがあってはなりません。」と記載したポスターを前記組合掲示板に掲示したところ、同日午後四時過ぎ頃、被告広沢が右掲示板前に原告井手窪を呼びつけ、その撤去を命じた。これに対し、原告井手窪は、「僕らは絶対はずさないと言っているのではない。」と再度話合いによる解決を求めたところ、被告広沢は同原告に対し、「じゃあ、おまえやめろよ。ここであんたの解雇通告をする。後は裁判でやりな。」と述べて解雇する旨の意思表示をした。

(二) 被告会社による組合脱退強要と組合費等の返還要求

(1) 平成二年一〇月一五日、被告会社取締役製造本部長田中穣(以下「田中本部長」という。)は、沢井伸一製造部長(以下「沢井部長」という。)、被告勝浦等を集め、従業員に対し組合脱退署名を書かせるよう指示した。右指示を受け、同日、第一機械部門においては、被告勝浦が同部門所属の原告組合員のうち一六名に脱退署名を書かせ、第二機械部門においては、被告安藤が従業員に組合脱退署名を書くよう命じ、同部門所属の原告組合員のうち三名に脱退署名を書かせ、化成品部門においては、田中本部長が丸山文雄主任(以下「丸山主任」という。)に組合脱退署名を集めるよう指示し、同部門所属の原告組合員のうち一四名に脱退署名を書かせ、それらを原告組合に提出した。その他にも、第一組立部門において一〇名の原告組合員の脱退署名が被告会社身浦次長により集められて原告組合に提出された。その結果、同日提出された脱退署名は約八〇名に上った。

これらは、いずれも就業時間中に被告会社の職制を動員して行われたものであり、被告会社による行為であることは明らかである。

(2) 被告会社は、田中本部長及び沢井部長の指示により、職制を動員し、従業員に対し、組合費及び闘争積立金の返還請求書を書かせ、これを原告組合に提出した。これも、金銭面で原告組合の弱体化を図る目的で行われた被告会社による行為である。

(三) 組合掲示板の撤去、組合事務所の破壊等の組合攻撃

(1) 原告井手窪を解雇した翌日である平成二年一〇月一四日、被告会社は第一機械部門の組合掲示板を使用できなくしたほか、第一組立部門に設置されていた組合掲示板を無断で撤去し、続いて、同月三〇日には化成品部門に設置してあった組合掲示板を一方的に撤去した。

(2) 同年一〇月一八日の就業前、原告組合が被告会社正門前においてビラを配布していたところ、被告玉置及び被告安藤がすぐ横にごみ箱を置き、原告組合からビラを受け取った従業員にそのビラをごみ箱に捨てさせ、原告組合によるビラ配布を妨害した。右行為は、その後も連日のように続けられた。

(3) 同月二六日、被告会社構内に設置されていた組合事務所の壁がフォークリフトの爪で壊されたり、事務所の入り口にパレットが詰(ママ)まれて出入りが妨害されるという事態が発生し、同月三〇日及び三一日には事務所の窓ガラスが割られ、三一日には、またもフォークリフトの爪で組合事務所の壁が壊され、入り口の戸が開かなくなった。さらに、同年一一月八日には、被告勝浦が部下に指示して組合事務所にフォークリフトを突っ込ませ、同月一二日にはさらに破壊行為を続け、同事務所を使用不能にし、原告組合がこれを補修したところ、同年一二月八日には、被告会社は同事務所を完全に撤去してしまった。

(四) 原告組合員に対する不利益取扱い

(1) 平成二年一〇月二七日、被告勝浦は、第一機械部門の第三班班長である原告東條に対し、「もう日報書かんでもいいぞ。」と、班長としての仕事をしないよう命じてきたため、同原告が同月二九日、沢井部長に右指示の意味を問いただしたところ、同部長は、「考え方変えん奴には班長としての指示はできんのや。現場で働いとけ。」と、あからさまに組合活動を理由として同原告から班長としての地位を取り上げた。

(2) 同月三〇日、沢井部長は原告組合員であった逢坂秀雄班長(以下「逢坂組合員」という。)を呼び出し、「どうしても組合賛成か。」と尋ね、同人が「賛成です。」と答えると、「それなら明日から班長の仕事はしなくていい。」と告げ、逢坂組合員から班長としての地位を取り上げた。

(3) 同じ頃、第一機械部門において、原告組合員だけが集められ、被告勝浦の指示のもと、他の部署の仕事や機械のペンキ剥がしの仕事等をさせ、原告組合員に対し、露骨な嫌がらせが行われた。

(五) 原告東條の解雇

被告会社は、平成二年一二月二八日、原告東條が、<1>同年一〇月一三日の従業員集会において被告広沢が集会場に入るとき罵声を浴びせ、また、同被告の発言を妨害したこと、<2>同年一一月一八日、第一機械工場プレス機械を破損し会社に損害を与えたこと、<3>同年一二月四日、食堂に会社の許諾なくして「井手窪委員長を職場に戻せ」と掲示したこと、<4>同年一二月二日、会社工場内に不法に立ち入ったことを理由として、原告東條に対し、解雇する旨の意思表示をした。

しかし、右理由はいずれも解雇の理由になり得ないものであって、右解雇は不当労働行為である。すなわち、<1>は、従業員集会の際、原告東條が、余りに不当な原告井手窪の解雇に関し、被告広沢に対し、普通の話し声で、「不当だ」「あんまりおかしいんではないですか。」と発言しただけであり、<2>は、当時第一機械部門の原告組合員が前記のとおり「プレス機械のペンキ剥がし」という全く必要もない仕事に就かされていた際、原告東條以外の原告組合員が抗議の意味で「団結」という文字を残してペンキを剥がしたことについて、これを「プレス機械の破損」と称して原告東條の責任にしたものであり、<3>は、当時被告会社により組合掲示板は撤去されていたが、被告広沢が「これからは組合ニュースも食堂に掲示していく」と発言したことがあり、その後食堂に原告組合発行のニュースが貼付されるようになっていた時期に、原告東條が、「井手窪委員長を職場に戻せ」と記載した組合ニュースを右食堂に掲示しただけであり、<4>は、被告会社により破壊された組合事務所の補修のため、原告東條ら原告組合員が、日曜日に、守衛に知らせた上で被告会社構内に立ち入ったに過ぎないものであった。

(六) 原告組合員に対する退職お願いの署名

平成三年に入ると、被告会社は、被解雇者を除くと七名にまで減少した原告組合員をさらに孤立化させ、退職に追い込もうと考え、同年一月一四日、被告安藤及び被告勝浦らが、各原告組合員に宛てて、「会社再建のために退職をしてほしい」との趣旨が記載された「退職お願い」と題する書面を作成し、各従業員から署名を集めた。これは、明らかに被告会社による原告組合の破壊工作である。

(七) 原告組合員に対する不良報告書の作成強要と不当配転

平成三年二月以降、被会会社は、従前は不良を一〇枚以上発生させた場合にのみ作成するものとされていた不良報告書を、原告組合員については、作業中に一枚でも不良を発生させるとその提出を強制するようになった。また、原告組合員の作業を後に立って監視したり、作業現場を写真に撮る等の嫌がらせを行うようになった。

しかし、それでも原告組合員が一向に退職しようとしなかったことから、同年四月二七日、被告会社は、突然、これまで第一機械部門においてプレス工として専門的作業を担当していた、奥野副委員長、判田明夫書記長(以下「判田書記長」という。)及び原告組合員東口俊夫(以下「東口組合員」という。)を、従来は新規採用で人員補充を行っていた全く異質な業務や、余りの単純さに従業員から嫌がられ、これまで社員が交代で担当していた業務等に配置転換した。

右配転は、当時第一機械部門に原告組合員七名のうち四名が集中していたことから、被告会社が原告組合の弱体化を図るために行ったものである。

(八) 入寮者の追出し策動

被告会社の社員寮(以下「寮」という。)には、平成二年一〇月当時、原告塚口及び原告組合員浜口秀徳(以下「浜口組合員」という。)を含め四名が居住していたが、被告会社は、同年一二月までに原告組合員を除く二名を退寮させ、同月二二日以降、原告塚口及び浜口組合員に対し、一方的に退寮を通告したり、虚偽の事実を告げて退寮を強要したりした。

しかしながら、両名がこれに応じなかったため、被告会社は、平成三年に入ると、被告会社の同僚従業員の寮への出入りを禁止して原告塚口及び浜口組合員の孤立化を図り、同年一月九日には被告岩井及び岩井総務部長らが原告塚口の部屋に勝手に入り込み部屋の中を写真撮影したり、同月一〇日には勤務時間中に原告塚口の部屋の扉を壊し、扉が開かない状態にして部屋に入れないようにするなどの実力行使を行った。

さらに、同年三月二八日には、原告井手窪が病気で休んでいた原告塚口を見舞いに寮に赴いたところ、岩井勝総務部長(以下「岩井部長」という。)、被告玉置、被告勝浦及び守衛らが押し掛け、「井手窪が来ただろう」と寮内をくまなく調べ回った。

その後も、岩井部長らが原告塚口らの部屋に無断で立ち入り、押入れの中まで調べたりしたこともあったが、同年六月四日には、寮の一部が解体され、事実上寮での生活が不可能な状態となった。

(九) 原告組合員らに対する賃上げ、一時金における差別的取扱い

被告会社は、平成二年の年末一時金の支給以来、原告組合の組合員の賃金について、非組合員と露骨な差別をするようになった。すなわち、平成二年の年末一時金については、原告組合員に対して本来支給されるべき金額から一六万二二〇〇円から三六万五六〇〇円も少ない金額が支給され、平成三年の夏季一時金においては、一四万三八〇〇円から二三万七二〇〇円、同年の年末一時金においては、一一万八八〇〇円から一六万八六〇〇円、平成四年夏季一時金においては、八万三〇五〇円から一九万一九〇〇円も少ない金額がそれぞれ支給された。

また、賃上げにおいても、原告組合員は非組合員と差別され、平成三年四月の各組合員の賃上げ額は、非組合員の賃上げ額と比べ九〇〇〇円から一万八五八〇円も低いものであり、平成四年四月の各組合員の賃上げ額は、非組合員と比べ一五〇〇円から九五八〇円も低いものであった。

(一〇) 原告組合員に対する不良発生を口実とした処分等

平成四年に入ると、被告らによる原告組合員らに対する嫌がらせはますますエスカレートし、同年三月、原告組合員らは社員慰安旅行への参加を拒否された。

同年四月以降、被告会社は、ミスとはいえないものをミスとしたり、ことさらに不良が発生するよう仕組んだりしたうえで、同年五月から八月にかけ、原告組合員に対し、不良発生を口実とする懲戒処分等を繰り返した。例えば、同年四月二五日には、被告玉置が、奥野副委員長及び判田書記長に対し、「不良報告書を書かない人には仕事を指示できない。」として、第一製造部事務所前で立たせるという嫌がらせをし、さらに、右両名に対し、四回にわたり、不良発生等を理由とする減給、出勤停止、譴責等の不当な懲戒処分を繰り返した。

(一一) グループ企業を利用した組合攻撃

被告広沢は、平成四年六月三日、広沢グループの中核企業であり、自身が代表取締役の一人であるキング工業株式会社(以下「キング工業」という。)を原告とし、原告組合及び原告井手窪に対し、一五〇万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起した。右訴えは、原告組合及び原告井手窪が、被告広沢との交渉を求めて東京にある広沢グループ東京本部を訪問したことを、キング工業に押し掛けたと偽って提起したものであり、原告組合に過大な出費と労力を強いるものであった。この訴えは、第一審、控訴審及び上告審においてことごとく排斥された。

なお、被告広沢は、平成五年一〇月二八日、同じく広沢グループの中核企業であり、自身が代表取締役社長である株式会社育良精機製作所(以下「育良精機」という。)を原告として、原告組合に対し、再び損害賠償を求める訴訟を提起したが、右訴えも、第一審及び控訴審において排斥された。

(一二) 労働協約の不当破棄と組合活動に対する処分攻撃

平成四年六月九日、被告会社は、突然、原告組合に対し、同年九月九日をもって労働協約を破棄することを予告し、同年九月一〇日、会社玄関前に「労働協約は破棄されましたので、構内での組合活動は認められません。」と掲示するに至り、それ以降、被告会社は、労働協約の破棄を理由として、組合ビラの配布を妨害し、あるいは原告組合の集会に対し写真やビデオ撮影をする等の嫌がらせを続け、会社内におけるあらゆる組合活動を排除する態度に出た。

さらに、同年一〇月一二日、被告会社は、奥野副委員長、判田書記長及び浜口組合員の三名に対し、会社内で許可なく集会、ビラ配布を行い、注意に従わなかったとして、譴責処分をしたほか、これに対し原告組合が三日間の抗議集会を行ったところ、これを理由として奥野副委員長、判田書記長、浜口組合員及び原告塚口に対し、出勤停止一日の懲戒処分をした。

被告会社による労働協約の破棄は、明らかに原告組合の正当な組合活動の妨害のみを企図したものであり、その後の一連の組合活動に対する妨害ともあわせ、明らかな不当労働行為である。

(一三) 原告組合員に対する帰宅命令による就労妨害

平成四年一二月二日、原告組合員は、有給休暇又は欠勤の届出を提出した上で、東京での統一行動に参加したところ、その翌日である同月三日、出勤した原告組合員らに対し、玄関で待ちかまえていた岩井部長が、「君らは昨日東京へ行って朝早くからビラをまいて大変疲れているだろう。事故を起こしてもろたら困る。」と告げ、「帰宅通知書」なる書面を渡した。岩井部長は、これについて何ら説明をしないまま会社の入り口を施錠し、原告組合員らの就労を妨害し、同日の賃金をカットした。同様の行為は、平成五年二月二八日、同年四月一日及び九月二二日にも行われた。

これは、原告組合員らの就労を不可能にし、会社から排除しようとする被告会社の意図によるものである。

(一四) 被告会社による原告塚口に対する嫌がらせ及び解雇

(1) 被告勝浦は、原告塚口に対し、平成二年一〇月二三日、「井手窪の近くにいたら首にするぞ。」と言ったり、同月二六日には、就業中に、「組合員と話しとったな、月曜日から会社に来るな。」と言ったり、同月二七日には「組合のもんとやっていくんやったらひどい目にあうぞ。」等と脅迫した。また、同被告は、勤務時間中日常的に、原告塚口に対し、「明日から来るな。豚、豚・・」「苦しんで死ね」等と罵倒し、小突く、胸ぐらをつかんで振り回す、引きずり回す、加工作業中の鉄板を蹴り上げる等の暴行を加えた。

(2) 原告塚口は、平成二年一一月頃から、常時被告勝浦の監視下におかれ、機械の古いペンキ剥がし、機械のかす取り、作業場の清掃、どぶ掃除等をさせられるようになった。

(3) 原告塚口は、平成二年一二月一七日、会社の忘年会の席上で、被告勝浦から顔面を何の理由もなく殴られ、同月二八日の仕事納めの日には、被告岩井や被告安藤から、「今年中に寮を出て行け」等と、理由もなく退寮を迫られ、その後前記のとおり退寮を狙った執拗な嫌がらせを受けたほか、平成三年一月一九日には、他の原告組合員らと会社の入り口前でビラを配っていた際、被告勝浦から散水ホースで放水され、全身びしょ濡れにされた。

(4) 原告塚口は、被告会社が平成三年初め頃から原告組合員らに不良報告書の提出を強要し、加えて、管理職らによる作業の監視、作業状況の撮影等を行ったことから、作業において一枚の失敗も許されないという緊張のもとに就労を強いられた。特に被告玉置は同年五月八日、作業中の原告塚口の後ろに立ち、長時間同人を監視し、同月一四日には、被告玉置及び被告勝浦が、一枚の不良品を発見したとして、作業をしている原告塚口及び判田書記長の写真を撮影し、その作業を三〇分にわたり妨害した。また、同月二一日、原告塚口が作業服に名札を付けるのを忘れて作業をしていたところ、被告玉置から「総務に報告したのか」と詰め寄られ、被告勝浦には、「塚口」と大書したB五判大の紙を無理矢理背中に張り付けられ、写真を撮影された。さらに、被告会社は、平成三年初めころから、残業表に原告組合員の名前を記載しないことによって、原告組合員を残業から排除し始め、原告塚口も職場において孤立化させられるようになった。

(5) 原告塚口は、以上のような嫌がらせの結果、平成三年三月頃から、一度欠勤すると出勤する気持ちになれず、連続して欠勤するようになったが、気を持ち直して出勤するとさらに嫌がらせを受けるため、同年夏頃には欠勤が続くようになった。

平成三年八月頃、原告塚口は、病院で検査を受けたところ、肝機能が低下しており静養が必要であるとの診断を受け、その旨の診断書を提出してしばらく欠勤した後、同年九月七日から同月一七日まで入院した。

(6) 原告塚口が退院の翌日出勤すると、被告会社は、同原告に対し、木枠潰しの作業を命じた。これは、従来は公衆浴場業者が行っていた作業であり、原告塚口は退院直後から、残暑の厳しい中、直射日光を浴びながら右作業をさせられた。

(7) 平成三年一一月頃から、被告会社は、原告塚口に対し、三か月もの長期にわたり、応援名目で、断続的に五工場での塗装等の作業を命ずるようになった。しかも、右作業はシンナーを吸う作業であるにもかかわらず、手袋、マスクを十分に支給しなかったため、原告塚口は、右作業をすると頭がふらふらになり、苦しい毎日を送ることになった。

右作業は、従来は塗装工を新規採用して人員を補充していたものであり、原告塚口に対するこのような長期応援の指示は、実質的には嫌がらせを目的とした配転に他ならない。

(8) 平成四年四月二三日、原告塚口は、日下部仁班長(以下「日下部班長」という。)の指示に従って作業をしていたところ、二五八枚の大量の不良を出し、同班長に「おまえこんな引き算もわからんのか。小学生でもわかるやないか」と罵倒され、同月二五日には、被告玉置、日下部班長、浜田班長、石井班長などに取り囲まれ、不良報告書を出すように強要された。

しかしながら、右不良発生は明らかに被告会社によって仕組まれたものであり、この事件以来、原告塚口は、いつまた罠に陥れられるかも知れないという極度の緊張を強いられるようになった。特に、同じ頃、東口組合員が同様に不良報告書の提出を強要される事件があり、同組合員は、引き続く嫌がらせにより、抑鬱性神経症を患って同月二三日以降出勤できなくなったため、これを見ていた原告塚口は、被告会社から何をされるか分からないという恐怖感に襲われるようにもなった。

(9) 同年五月一四日、原告塚口は、被告玉置から、サイドプレスのカバーの掃除を命ぜられたが、その作業を終えたにもかわらず、同被告は、「まだ汚れている。もっと綺麗にしろ。」と言い、これを繰り返すという嫌がらせをした。

(10) 被告会社は、平成四年四月以降、原告塚口を含む原告組合員に対し、不良発生を口実として懲戒処分をしたが、そのような中、同年七月一日、奥野副委員長が不良報告書を提出しなかったことを理由に出勤停止処分に付され、さらに、同月六日には、奥野副委員長が一か月以上も前である同年五月二八日に出した棚板不良一枚について不良報告書の提出を求められるという事件が発生した。さらに、右七月六日の朝礼において、被告岩井が「不良報告書を出さない奴がおる。」と発言し、翌七月七日の朝の班会では、石井班長が同様の趣旨を発言したことから、原告塚口は、同年四月二三日の大量不良発生についていつまでも追及を受け、今後これを理由とした新たな嫌がらせが待っているに違いないと考えるようになった。

(11) 原告塚口は、翌七月八日会社で何が待っているか分からないという気持ちから出勤することができず、また、同月一六日から二一日まで、気管支炎のため欠勤した。そして、同月二二日に出勤したところ、被告会社は、原告塚口に対し、再びシンナーを扱う塗装作業の応援を命じ、これを行った同原告は、腹肋筋痙攣を起こして倒れ、救急車で病院に運ばれた。

(12) 右事件以来、原告塚口は不眠症に陥り、出勤しようにも全く会社に足が向かず、同年一〇月七日まで約二か月半の間欠勤した。なお、その間である同年九月三日には、不眠症につき加療を要する旨の医師の診断書を被告会社に提出した。しかしながら、被告会社はこの間も原告塚口に対する嫌がらせをやめず、同年九月九日から一一日にかけ、宮崎常務、岩井部長らが繰り返し原告塚口の部屋を訪れるなどして、精神的な圧力をかけ続けた。

(13) 平成四年一〇月八日から、原告塚口は出社するようになったが、被告会社は、同年一一月頃から、原告塚口に対し、再び連日の応援作業を命じるようになり、同人は、本来の職場から引き離された状態での作業を強いられた。応援作業は、平成五年一月二〇日から約一か月間及び同年四月二〇日頃から同年七月二〇日までの間にも命じられ、特に同年五月一一日からの応援では、被告安藤と二人一組の作業を指示された。また、被告会社は、同年二月一二日に井手窪の解雇を不当労働行為と認めた大阪地労委の命令が出ると、原告組合に対する攻撃を強め、同月一五日には、原告組合に対し、会社敷地内での組合活動は、就業時間外であっても会社の意思に反するものは処分の対象となる旨の警告書を発し、原告塚口に対し、同月一八日、空手を仕掛けようとし、また、ごみ呼ばわりするなどの嫌がらせをしたため、原告塚口は、再び不眠症の状態に陥り、同月二三日から二七日までの間身体不調により欠勤した。

さらに、被告会社は、平成四年一一月頃から、被告安藤らをして、原告組合に闘争積立金の返還を請求させていたが、同時に、原告組合員個人に対しても、「金を返せ」と執拗に迫るようになった。この攻撃は、当初は判田書記長に向けられていたが、平成五年一月一二日の午前一〇時及び午後三時の休憩時間に、牧浦哲司班長(以下「牧浦班長」という。)、被告安藤、水田班長らが、原告塚口に対し、「金返せ」と詰め寄ったのを始め、同月二〇日頃からは同原告に対し集中して攻撃が加えられるようになり、同年五月一二日頃から同年六月一六日頃までの間は、同原告が休憩に行こうとすると、被告安藤らがこれを待ち伏せ、「泥棒、盗人」などと大声で詰め寄り、同原告が休憩に行くのを阻むといった嫌がらせが連日続けられた。

(14) その結果、原告塚口は、休憩所へ行くこともできず、勤務中気持ちの休まることがなく、以前にもまして出勤することに恐怖感を覚えるようになり、欠勤が続くことが幾度かあり、その結果、平成四年七月二一日から平成五年七月二〇日までの一年間に合計九〇日以上の欠勤をすることになった。

被告会社は、これを奇貨として、平成五年七月二〇日、一年を通じて自己欠勤が九〇日以上に及び勤務成績が著しく不良であることを理由として、原告塚口に対し、解雇する旨の意思表示をした。

5 原告塚口の解雇の無効

原告塚口の解雇は、以下の理由により、無効である。

(一) 原告塚口の解雇は、就業規則第二九条の「自己欠勤」概念の解釈を誤ったものであって、そもそも同条に該当しない。同条の自己欠勤とは、就業規則第三三条との関係上、病気欠勤を除く自己都合欠勤であると解すべきであるところ、原告塚口のストライキを除く欠勤日数九二日のうち、身体不調、風邪、腹痛を理由とする病気欠勤は合計七五日存在するのであるから、原告塚口の自己欠勤は九〇日以上に達しない(なお、被告会社の就業規則においては、一週間を超える連続欠勤の場合に限り診断書の提出が義務づけられているところ、原告塚口の病気欠勤のうち、一週間に満たない病気欠勤は二九日存在するから、いずれにせよ、同人の自己欠勤が九〇日を超えることはない。)。

また、被告会社においては、毎年四月に昇給を行い、その際従業員の勤務懈怠状況を毎年四月を基準に把握しているのであるから、「一年を通じて」の期間の起算点も四月とすべきであるところ、本件解雇に当たり原告塚口の入社日を基準として欠勤日数を計算したのは不当である。

(二) 仮に以上の主張が認められないとしても、被告会社が主張する原告塚口の欠勤日数九二日の中には、地労委の審問への出席を理由とする欠席が四日あるところ、これを解雇理由の基礎とすることは、被告勝浦が勤務時間中の審問廷出席について、欠勤扱いはおろか賃金カットすら受けていないのと比較して余りに偏頗な取扱いであり、地労委の救済命令を求めるという労働組合の正当な行為を理由に不利益な取扱いをしたものとして、不当労働行為に該当するというべきであるから、右四日を解雇理由の基礎とすることは許されないと解すべきである。したがって、原告塚口の欠勤は一年を通じて八八日であって、九〇日を超えているとはいえない。

(三) 被告会社の就業規則上、解雇するためには、単に欠勤日数の要件を満たすだけではなく、勤務成績が著しく不良であることを要するところ、原告塚口は、誠実に職務を遂行しており、勤務態度が不良であるとは到底いえないし、原告塚口の欠勤は、基準期間中の当初二か月余りの期間に集中しており、解雇前一〇か月の欠勤は少なく、勤務状況は改善されている。

(四) 原告塚口は、前年度の出勤日数が、被告会社の度重なる不当労働行為により、八割に満たなかったため、有給休暇を取得することができなかったことから、解雇前一年間の自己欠勤数が九〇日を超えることになったものであり、このことを理由とする解雇は解雇権の濫用である。

(五) 原告塚口の解雇は、同人が原告組合員であったことから、原告組合潰しを図る被告会社が、原告塚口を欠勤に追い込むため、同人に対し、勤務時間の内外を問わず連日にわたり嫌がらせを加え、同人が出社しようにもできない精神状態に陥れて欠勤させ、その欠勤日数が就業規則上の解雇事由を形式的に満たした時点で、それを奇貨として行われたもので、明らかに被告会社の不当労働行為によるものであるから、無効である。

6 被告らの不法行為責任

(一) 前記被告会社の一連の行為は、憲法二八条によって保障された労働者の団結権、団体行動権を侵害する不法行為であることは明らかである。そして、被告広沢は、代表者就任直後から原告組合を敵視し、その壊滅を意図して様々な行為を繰り返し、被告岩井、被告玉置、被告安藤及び被告勝浦は、いずれも、被告会社の管理職として、右一連の不当労働行為に積極的に関与してきたのであって、被告会社は民法七〇九条及び同法七一五条により、被告広沢及び被告岩井は民法七〇九条及び同法七一九条及び商法二六六条の三により、その余の被告らは民法七〇九条及び同法七一九条により、原告組合に対し、それぞれ不法行為責任を負う。

(二) 原告井手窪は、被告広沢によって、全く正当な理由なく解雇されたのであって、右は不法行為を構成するというべきであり、被告広沢は民法七〇九条及び商法二六六条の三により、被告会社は民法七〇九条及び同法七一五条により、それぞれ不法行為責任を負う。

(三) 原告東條は、被告広沢から、理由のない班長降格等の不当労働行為を受け、正当な理由なく解雇されたのであって、右は不法行為を構成し、被告広沢は民法七〇九条及び商法二六六条の三により、被告会社は民法七〇九条及び同法七一五条により、それぞれ不法行為責任を負う。

(四) 原告塚口は、被告勝浦を中心とした管理職から長期にわたり様々な嫌がらせを受け、解雇されたのであって、右は不法行為を構成するというべきであり、被告広沢は民法七〇九条、同法七一九条及び商法二六六条の三により、被告勝浦は、民法七〇九条及び同法七一九条により、被告会社は、民法七〇九条及び同法七一五条により、それぞれ不法行為責任を負う。

7 原告塚口の賃金請求権

(一) 原告塚口の平成五年七月現在の給与は、基本給八万〇六〇〇円、調整手当五万一九四〇円及び皆勤手当六〇〇〇円の合計一三万八五四〇円であったところ、被告会社の原告組合に対する昇給差別により、平成三年に本来一万一八九一円の賃上げが行われるべきであったにもかかわらず、七四二〇円の賃上げしか行われておらず、差額の四四七一円を加算すべきであるから、同年七月二一日以降の原告塚口の賃金は、月額一四万三〇一一円となる。

(二) 原告塚口は、平成二年の年末一時金として二五万一二六四円、平成三年の夏季一時金として二一万三五〇七円を支給されるべきであったから、平成五年七月二一日以降も少なくとも右金額の一時金を請求する権利を有する。

8 原告らの損害

(一) 原告組合の損害

(1) 組合事務所破壊による損害

原告組合は、被告らに組合事務所を破壊され、平成三年二月一日以降社外に組合事務所を賃借せざるを得なくなり、平成五年三月末日まで月額三一〇〇〇円、その後は月額三万三〇〇〇円の賃借料を負担し、その同年一〇月までの間の合計額は一〇三万九〇〇〇円である。

(2) 組合員の脱退による組合費の喪失

被告らの不法行為の結果、原告組合の組合員数は一〇四名から六名に減少し、これにより、原告組合は、平成五年九月までの間少なくとも三二〇万円の組合費を喪失した。

(3) 係争を余儀なくされたことによる損害

被告らの不法行為により、原告組合は、労働組合としての権利の防衛と組織の維持を図るため、大阪地労委に五件の救済申立て、大阪地方裁判所に二件の仮処分申請及び一件の訴訟の提起を余儀なくされ、また、被告会社がした中労委に対する再審査申立てや被告広沢によるグループ企業を利用した訴訟への対応も強いられた。これにより、原告組合は、組合員が労働委員会や裁判所に出頭した際の賃金補償約一〇〇万円、交通費及び宿泊費約一〇〇万円、弁護士費用約四〇〇万円及びその他の費用の出費を余儀なくされ、その額は合計六〇〇万円を下らない。

(4) 被告会社との交渉を実現するために要した費用

被告広沢は、東京近辺に滞在しているため、原告組合は、被告会社との交渉のため東京に赴かざるを得ず、平成四年及び平成五年にそれぞれ四回組合員が東京へ赴いた。そのための交通費及び宿泊費は約九〇万円であり、賃金補償のために負担を余儀なくされた金額は少なくとも一〇万円であるから、損害は合計一〇〇万円を下らない。

(5) 非財産的損害

被告らの不法行為により、原告組合は、その活動が不可能になり、存在意義を否定されたに等しい状態になった。また、被告会社の攻撃から組織を防衛するために強いられた出費は前記(1)ないし(4)にとどまるものではない。これらの損害をあえて金額に見積もれば、少なくとも一〇〇〇万円を下回ることはない。

(6) 弁護士費用

原告組合に関する弁護士費用としては、損害額の一〇パーセントである二一二万三九〇〇円が相当である。

(二) 原告井手窪、原告東條及び原告塚口の損害

右原告らが、被告らから受けた不法行為による精神的損害は、少なくともそれぞれ五〇〇万円を下らない。

二  被告らの主張(請求原因に対する認否及び被告らの主張)

1 1(当事者)について

(一)は認める。(二)のうち、原告組合が被告会社の従業員らによって結成された労働組合であることは認め、その余は不知。(三)のうち、各原告らの入社の時期、職種は認め、その余は不知。

2 2(原告組合の結成と被告広沢が代表取締役に就任する前の労使関係)について

被告会社に評議員会という組織があったこと、平成二年六月六日従業員により原告組合が結成され、原告井手窪が執行委員長となったこと、原告組合結成当時の被告会社の代表者が岩井正雄(被告岩井の兄)であったことは認めるが、その余は不知ないし争う。

3 3(被告広沢の代表取締役への就任と原告組合に対する対応の変化)について

被告広沢が被告会社の経営権を掌握し、代表取締役に就任したこと、同人が原告井手窪及び奥野副委員長と話す機会を持ったこと、被告会社が、平成二年一〇月一一日、原告組合が恣に使用していた会社掲示板の移動を求めたことは認め、その余は否認する。

4 4(被告会社による原告組合つぶしの不法行為の経緯)について

(一) (一)のうち、原告主張のようなポスターが掲示されたこと、被告広沢が原告井手窪を解雇する旨の意思表示をしたことは認め、その余は争う。

(二) (二)(1)(2)のうち、脱退署名及び組合費等の返還請求書が原告組合に提出されたことは認めるが、その余は否認する。右各行為は被告会社によって行われたものではない。

(三) (三)(1)は争う。第一機械部門の掲示板は組合掲示板ではない。また、第一組立部門及び化成品部門の掲示板を撤去した者は不明である。同(2)は否認する。同(3)のうち、組合事務所(ただし、組合事務所ではなく、備品置場である。)が破壊されたことは認めるが、これが被告会社の行為であることは否認する。

(四) (四)(1)(2)は否認する。同(3)は争う。原告組合員のみが他の部署の応援、ペンキ剥がし等の作業に従事したわけではない。

(五) (五)のうち、被告会社が原告東條を解雇したこと及びその理由については認める。

(六) (六)のうち、退職お願いの署名を被告勝浦及び被告安藤が集めたことは認めるが、その余は否認する。

(七) (七)は争う。不良発生につき原告組合員のみに報告書の提出を求めたことはないし、不良が一〇枚以上発生した場合にのみ報告書を提出させるとの定めも存在しない。また、配置転換は原告組合員のみに対し行ったものではなく、全く別の業務に従事させた事実もない。

(八) (八)は否認ないし争う。原告組合員を除く二名は退社に伴い退寮し、浜口組合員は在寮期間経過により退寮したのである。また、原告塚口及び浜口組合員の居住部分は解体されておらず、現に原告塚口は寮において生活している。

(九) (九)は否認する。被告会社においては一定の給与表は存在しない。

(一〇) (一〇)のうち、被告会社が原告組合員らの社員慰安旅行への参加を拒否したこと、奥野副委員長及び判田書記長に対し懲戒処分を行ったことは認める。

被告会社が原告組合員らの社員慰安旅行への参加を拒否したのは、原告組合員らが、旅行に参加する際の服装についての被告会社の指示に従わなかったためである。また、奥野副委員長及び判田書記長に対する懲戒処分は、両人が不良発生について不良報告書の提出を拒否したため、行ったものである。

(一一) (一一)のうち、各訴訟が提起されたことは認めるが、その余は不知ないし争う。

(一二) (一二)のうち、被告会社が労働協約を解約したこと、奥野副委員長らに対し、会社構内での組合活動を理由に懲戒処分をしたことは認め、その余は否認する。

(一三) (一三)のうち、被告会社が帰宅通知書を交付したことは認めるが、その余は争う。

(一四)(1) (一四)(1)及び(2)は否認する。

(2) (3)のうち、原告塚口に対し退寮を要求したこと、散水ホースで放水したことは認め、その余は否認する。なお、原告主張の忘年会の事件は、被告勝浦が逢坂組合員と口論中、振り払った手が偶然原告塚口に当たったものに過ぎない。

(3) (4)は否認又は争う。不良報告書の提出要求は正当な要求であって、嫌がらせではない。また、原告塚口が名札を付けずに作業していたのは一日だけのことではなく、注意するのは当然である。

(4) (5)のうち、原告塚口が欠勤したことは認め、その余は不知。

(5) (6)は争う。木枠潰しの作業は他の従業員も行っており、原告塚口にのみ従事させたものではない。

(6) (7)は争う。手袋及びマスクが支給されていたことは、原告らの主張によっても明らかである。

(7) (8)のうち、原告塚口が不良を発生させ、被告会社が報告書の提出を求めたことは認め、その余は否認又は争う。原告塚口の不良発生は、同人の能力不足によるものである。東口組合員が抑鬱性神経症に罹患したのは、原告組合結成以前のことである。

(8) (9)は否認する。

(9) (10)のうち、奥野副委員長に対し懲戒処分をしたことは認める。

(10) (11)のうち、原告塚口の出勤状況及び被告会社が同人に対し塗装作業を命じたことは認めるが、その余は否認する。

(11) (12)のうち、原告塚口の出勤状況は認めるが、その余は否認する。

(12) (13)のうち、平成四年一一月頃から原告塚口に対し応援作業を命じたことは認めるが、その余は否認又は争う。応援作業は被告会社の工場運営の必要性から命じたものである。

(13) (14)のうち、原告塚口の欠勤日数が平成四年七月二一日から平成五年七月二〇日までの間において九〇日を超えたこと、被告会社が原告塚口を解雇したことは認めるが、その余は争う。

5 5(原告塚口の解雇の無効)について

(一) (一)は争う。就業規則第二九条の「自己欠勤」とは、有給休暇を除く欠勤である。就業規則第三三条は、連続六か月以上に及ぶ病気欠勤についての規定であるから、何ら矛盾することはない。原告らの主張によれば、病気欠勤が六か月以上に及ばず、かつ、自己都合による欠勤が年間九〇日を超えない場合には、何らの処分も行えないことになるが、これは不合理である。

また、原告塚口の入社は平成元年七月二一日であり、被告会社においては欠勤日数計算の起算日はその入社の日を基準にしているのであって、これは何ら不当ではないが、仮に四月一日を基準に計算しても、平成四年四月一日から平成五年三月三一日までの原告塚口の自己欠勤日数は一〇七日に及ぶから、原告らの主張は理由がない。

(二) (二)は争う。審問廷出席のための欠勤が通常の欠勤として取り扱われることは、原告組合員らも承諾していた。現に、原告組合員らのうち有給休暇を有するものはその請求をしていた。

(三) (三)は争う。原告塚口は、入社一年目において所定就業日数の一〇パーセント、二年目においては一五パーセント、三年目においては二七パーセントをいずれも超える日数の欠勤をしており、平成四年五月一三日には、これを理由に譴責処分を受けているのであって、本件解雇に至るまでの原告塚口の出勤状況は極めて不良であった。また、原告塚口の解雇前一〇ヶ月間の欠勤日数が少なかったというのは事実に反し、今後同原告の出勤状況が改善される見込はなかった。

(四) (四)は否認又は争う。有給休暇を取得できなかったのは原告塚口の責任であって、被告会社の責任ではない。

(五) (五)は争う。原告塚口は、前記のとおり、入社後の出勤状況が極めて悪く、入社一年目において所定就業日数の一〇パーセント、二年目においては同じく一五パーセント、三年目においては同じく二七パーセントをいずれも超える日数の欠勤をしており、平成四年五月一三日には、平成三年七月二一日以降の出勤状況を理由に譴責処分を受けたにもかかわらず、同年七月二一日から平成五年七月二〇日までの自己欠勤日数(ストライキ等によるものを除く。)が九三日に及び、就業規則に定める九〇日を超えたため、被告会社は同原告を解雇したのである。

また、仮に原告ら主張のような嫌がらせ等が存在したとしても、原告塚口がこれに屈していたとは考えられないから、これが理由で欠勤したものとは考えられない。

6 6(被告らの不法行為責任について)

争う。なお、仮に原告らの主張する各事実が認められるとしても、被告広沢ら個人が共謀の上原告組合を攻撃した事実は存在しない。

7 7(原告塚口の賃金請求権)について

原告塚口の給与の額及び皆勤手当の額は認め、その余は争う。なお、原告塚口は、平成五年七月分の給与において六万〇四六五円の欠勤控除を受けており、皆勤手当も支給されていない。

8 8(原告らの損害)について

(一) 原告組合の損害について

(1) (1)は争う。被告会社が原告組合に提供することを合意したのは備品置場であって組合事務所ではなく、また、備品置場の提供に関する労働協約は、平成四年九月九日に被告が解約したことにより、又は、調印後三年を経過した平成五年六月を過ぎても更新されなかったことにより、効力を失っているのであるから、組合事務所の賃借料を被告会社が負担すべき理由はない。

(2) (2)は争う。組合員の脱退が有効であることは明らかであるから、右脱退が何人の意思によるものであったかにかかわらず、喪失した組合費を被告会社らに請求することは許されない。

(3) (3)のうち、原告組合が地労委に救済申立てをしたこと、裁判所に保全処分の申立て及び訴訟の提起をしたことは認めるが、その余は争う。組合員は任意に地労委や裁判所に出頭しているのであって、しかも原告塚口を除く原告組合員はおおむね有給休暇を取得して出頭しているから、その間の賃金や交通費等を被告会社に請求する根拠はなく、また、訴訟費用については、所定の手続により償還を求め得るのであるから、これが損害になるものではない。

(4) (4)は争う。被告会社は大阪府に所在しているのであるから、交渉のため東京に赴く必要は全くない。

(5) (5)、(6)は争う。

(二) 原告井手窪、原告東條及び原告塚口の損害について

争う。

(乙事件)

一  被告会社の主張(請求原因)

1 被告会社は、その所有する別紙物件目録記載の建物部分(以下「本件建物」という。)を、平成元年七月二一日、右同日被告会社に入社した原告塚口に対し貸し渡し、同人は本件建物に入居し、現在に至っている。

2 本件建物は被告会社の独身寮であり、被告会社の従業員である者に対し貸し渡しているものであるから、入居者が被告会社の従業員の地位を喪失したときには当然に入居の権利を失う。

3 被告会社は、平成五年七月二〇日、原告塚口に対し、解雇する旨の意思表示をした。

二  原告塚口の主張(請求原因に対する認否及び抗弁)

請求原因事実は認めるが、原告塚口の解雇は甲事件請求原因に記載のとおり、無効である。

(本件の主たる争点)

一  原告塚口の解雇の効力

二  被告らによる一連の行為が原告らに対する不法行為となるか。

三  被告らによる一連の行為が原告らに対する不法行為になる場合の原告らの損害

第三主たる争点に対する当裁判所の判断

一  当事者間に争いのない事実、証拠(<証拠略>のほか、後記掲記のもの。なお、一部重複して掲記することがある。)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。

1  当事者(<証拠略>)

(一) 原告ら

(1) 原告組合は、平成二年六月六日、被告会社の従業員によって結成された労働組合であり、組合規約を有し、執行委員長を代表者と定めた権利能力なき社団であり、平成五年二月一二日、大阪地労委により資格審査を受けている。

(2) 原告井手窪は、昭和五八年五月、被告会社に雇用され、第一溶接部門において溶接工として勤務してきた者であり、原告組合の結成時から同組合の執行委員長である。

(3) 原告東條は、昭和六〇年三月、被告会社に雇用され、第一機械部門においてプレス工として勤務してきた者であり、原告組合の結成時から同組合の青年部長である。

(4) 原告塚口は、平成元年七月、被告会社に雇用され、第一機械部門においてプレス工として勤務してきた者であり、平成二年九月二五日に原告組合に加入し、以来同組合の組合員である。

(二) 被告ら

(1) 被告会社は、肩書地に本店を置き、金属プレス板金溶接加工、金属製品製造等を目的とする株式会社であり、その従業員は平成二年六月当時は二〇〇名を超えていたが、平成五年一〇月現在約一三〇名であった。

(2) 被告広沢は、育良精機、キング工業等を始めとする広沢グループと称する約一〇の企業を統括している者であるが、平成二年一〇月一日、被告会社の経営権を譲り受け、同月四日、被告会社の代表取締役社長に就任した。なお、被告広沢は、茨城県下館市に居住しており、被告会社にはほとんど顔を見せないが、従業員の労働条件の決定、組合対策等については、逐一報告を受け、最終的な決定権限を有していた。

(3) 被告岩井は、昭和三七年から被告会社の取締役副社長である。

(4) 被告玉置は、本件当時被告会社の技術部工作課の課長であった。

(5) 被告安藤は、本件当時被告会社の製造部第二機械部門の係長であった。

(6) 被告勝浦は、平成四年四月までは被告会社の製造部第一機械部門の係長であったが、それ以降は技術部の係長である。

2  被告広沢が被告会社の代表取締役に就任するまでの労使関係(<証拠略>)

(一) 被告会社には、従前労働組合が存在せず、被告会社が組織した評議員会という組織があるのみであったが、平成二年六月六日、被告会社の従業員六〇名によって原告組合が結成され、原告井手窪が執行委員長に就任した。

(二) 原告組合結成当時の被告会社の代表者は被告岩井の兄である岩井前社長であったが、平成二年六月七日、被告会社と原告組合との間で、<1>被告会社が組合掲示板の設置及び原告組合による会社食堂の利用を認めること、<2>就業時間外の会社施設内での組合活動を保障し、就業時間内であっても執行委員長への連絡通信を取り次ぐことを内容とする協定が締結された。原告組合は、右協定に基づき、岩井前社長の了解を得て、同月八日から、第一機械部門にある元評議員会の掲示板(以下「第一機械掲示板」という。)を組合掲示板として使用し始めた。その後、原告組合と被告会社の交渉により、組合掲示板の設置場所を計七カ所にすることで両者が合意し、被告会社から六枚の組合掲示板が提供され、同年九月五日頃、原告組合は、とりあえず本社一階便所横、化成品部門及び第一組立部門の三カ所に新たに組合掲示板を設置した。

また、同年六月一三日に行われた団体交渉において、原告組合が組合事務所の提供を求めたのに対し、岩井前社長は、いずれは厚生会館を利用できるようにしたいがそれまでは本社社屋南側のプレハブ建物(以下「本件プレハブ建物」という。)を提供する旨回答し、同日、被告会社と原告組合の間で、被告会社が原告組合に備品置場を提供すること等を内容とする協定が締結され(なお、同年六月七日の協定及び同月一三日の協定を合わせ、以下「本件協定」という。)、これに基づき、原告組合は、同月一六日から本件プレハブ建物を使用し始めた。原告組合は、本件プレハブ建物を実際には組合事務所として使用していたが、これにつき、被告会社が異議を述べることはなかった。

さらに、平成二年の夏季一時金も原告組合と被告会社の団体交渉によって解決するなど、原告組合結成当初の労使関係はおおむね良好であり、同年八月頃には、原告組合の組合員数は一〇四名にまで増加した。

3  被告広沢の被告会社の代表取締役就任と労使関係の変化(<証拠略>)

平成二年一〇月一日頃、岩井前社長は被告会社の経営権を被告広沢に譲渡し、これに伴い、同月四日岩井前社長が被告会社の代表取締役を退任し、被告広沢が代表取締役社長に就任した。

被告広沢は、右同日、原告井手窪及び奥野副委員長を社長室に呼び、両人に対し、「顔は立つようにしてやるから組合を解散しろ。」「いやならここにおれんようになるし、就職もできんようにしてやる。」「俺が言っていることは不当労働行為だ。地労委でも裁判所でも訴えてみろ。謝ってまたやったらいいんだ。」等と一方的に述べ、原告組合の解散を強い調子で迫った。

さらに、同月五日に開催された新社長の就任披露パーティにおいて、被告広沢は、集まった従業員に対し、「私が来た早々ビラとかポスターで迎える心の良くない一部の人がいる。非常識である。一回目は誤解で許せるが、二、三回続くのならば命をかけて戦ってやる。」等と挨拶した。

原告組合は、右のような被告広沢の対応に対し、同月一一日、「誤解を解き当たり前の労使関係を作っていきましょう。」等と記載されたビラを作成して従業員に配布したところ、淵上次長は、同日、原告組合に対し、第一機械掲示板を撤去するよう通告した。

4  原告井手窪の解雇(<証拠・人証略>)

(一) 平成二年一〇月一三日、原告井手窪は、「組合としては撤去を含めて柔軟に対応する用意があります。団体交渉での話合いを求めています。しかし、一方的に撤去されるようなことがあれば不当労働行為であり、そんなことがあってはなりません。」と記載されたポスターを第一機械掲示板に掲示したところ、被告広沢が、同日午後四時過ぎころ、原告井手窪を右掲示板前に呼び、「組合掲示板は一つしか約束してねえんだからはずしな。」等と述べ、その撤去を命じた。原告井手窪がこれに応じず、団体交渉での解決を求めたところ、被告広沢は、「じゃあ、おまえやめろよ。ここであんたの解雇通知をする。後は裁判でやりなさい。」等と述べ、原告井手窪に対し解雇を通告した。これに対し、原告井手窪が解雇理由を問いただしたところ、被告広沢は、「使いたくないから解雇する。」旨述べ、具体的な解雇理由を示さなかった。

同日開かれた夕礼において、被告広沢は、従業員に対し、原告井手窪を解雇した旨通告するとともに、「その日あったことをポスターに書くような力があるんだったら仕事に使え。」「組織を取るか私を取るかはっきりさせてくれ。広沢グループの他の会社でもこういうことがあったが、組合を取った一握りの人はおれなくなってしまった。」との趣旨の発言をした。

原告井手窪は、同月一五日被告会社に出勤したが、被告岩井らに実力で排除され、会社構内に入ることができなかった。

(二) 原告井手窪は、平成二年一〇月二四日、右解雇が無効であるとして、大阪地方裁判所に対し、地位保全の仮処分を申請し、同年一二月一八日、同地裁から、原告井手窪の労働契約上の地位を仮に定め、被告会社に対し賃金の仮払いを命ずる内容の仮処分決定を得た。しかしながら、被告会社はその後も原告井手窪の就労を拒絶し続けた。

5  組合脱退署名の提出と組合費等の返還請求(<証拠・人証略>)

(一) 平成二年一〇月一五日、田中本部長は、沢井部長、被告勝浦、被告安藤及び竹林の各係長に対し、社長の指導のもと一丸となってやるのか、それとも組織を取るのか従業員の意思を早急に確認するように指示した。同日、第一機械部門では、被告勝浦が従業員に対し、「組合があっては困る、一致団結して仕事ができないと社長が言っている。脱退するかどうかの意思を今日中に確認してこいと言われた。」等と述べ、社用箋を用いて作成した組合脱退届に、自ら各従業員を回って署名させ、これを原告組合に提出した。なお、右組合脱退署名には、被告勝浦を始め、原告組合員でない者の氏名も記載されていた。第二機械部門においても被告安藤が従業員に対し「組合は脱退した方がいいのではないか。」等と述べ、同様に従業員の脱退署名を集め、これを原告組合及び田中本部長に提出した。さらに化成品部門では牧浦哲司係長(以下「牧浦係長」という。)及び丸山主任が、社用箋を用いて作成した組合脱退届に、各従業員から署名を集め、第二溶接、第一組立の各部門、東部センター及び加納工場においても組合員らの脱退署名が作成されて原告組合に提出され、同日脱退署名を提出した者の数は約八〇名に及んだ。

(二) 平成二年一〇月二二日頃、沢井部長は被告安藤から「組合費は返してもらえるのか。」と質問されたのに対し、「返してもらえ、返してもらえ。」と述べ、その後、被告安藤、丸山主任らが中心となって、もと原告組合員であった従業員に対し、組合費及び闘争積立金(以下これらを「組合費等」という。)の返還請求書を書かせ、これを同月三一日から同年一一月二日にかけて、牧浦係長や丸山主任が原告組合に提出した。

6  組合掲示板の撤去、本件プレハブ建物の破壊等(<証拠・人証略>)

(一) 平成二年一〇月一四日、被告会社は、第一機械掲示板に社長方針等を記したボードを貼り付けて使用できなくしたほか、同月二四日には第一組立部門に設置されていた組合掲示板を無断で撤去した。被告会社は、原告組合の抗議により、右翌日、第一組立部門の組合掲示板をいったんは復旧したが、同月二六日頃には一階トイレ横に設置されていた組合掲示板が、同月三〇日頃には化成品部門に設置されていた組合掲示板が、それぞれ何者かによって撤去され、さらに、同年一一月九日には前記第一組立部門の組合掲示板も何者かによって撤去された。なお、一階トイレ横の掲示板が撤去された直後、同場所には被告会社の品質管理ポスターが貼付されていた。

平成三年一月、原告組合は、二度にわたりトイレ横に代用の掲示板を設置したが、いずれも、被告玉置及び被告勝浦がこれを直ちに撤去した。

(二) 平成二年一〇月二六日、本件プレハブ建物の壁がフォークリフトの爪で二カ所壊され、建物の入り口にパレットが積まれ出入りが出来ないようにされた。また、同月三〇日及び三一日には本件プレハブ建物の窓ガラスが割られ、三一日には、またも、フォークリフトの爪で本件プレハブ建物の壁が破壊されたため、入口の戸が開かなくなった。さらに、同年一一月八日午後七時頃には、被告勝浦が部下に指示して本件プレハブ建物にフォークリフトを突っ込ませ、戸を完全に破壊した。同月一二日には、本件プレハブ建物は使用不能な状態にまで破壊された。同年一二月二日頃、原告組合が本件プレハブ建物を補修したが、同月八日、沢井部長の指示により、被告勝浦らが、原告組合に無断で、本件プレハブ建物を、中にあった机や冷蔵庫等とともに完全に撤去した。なお、その跡に残された組合看板には、「長い間ごくろうさんです。サヨナラ、サヨナラ」と落書きされていた。

7  被告会社職制らによるビラ配布の妨害(<証拠・人証略>)

(一) 平成二年一〇月一八日の就業前である午前七時四〇分頃、原告組合員が被告会社正門前においてビラを配布していたところ、被告玉置及び被告安藤らがその近くにごみ箱を置き、原告組合員からビラを受け取った従業員に対し、「ごみはごみ箱に捨てて下さい。」と呼びかけ、そのビラを捨てさせた。右行為は、その後も連日のように続けられ、同月二七日には約三〇名の被告会社職制らが被告会社正門前に立ち、右行為を続けるとともに、被告勝浦はノートにビラを受け取った者の名前を記入するような仕草をした。また、同日、牧浦係長は、化成品部門の全従業員に対し、組合のビラを絶対受け取らないよう指示した。それ以降も、大勢の被告会社職制らが始業時刻前に正門前に立ち、原告組合員らのビラ配布を監視する行為を続けたため、被告従業員の中でビラを受け取る者はいなくなった。

(二) さらに、平成三年一月一六日、被告広沢は、被告会社玄関前でビラを配布していた原告組合員らに対し、「判田死んじまえ。」「おまえら水かけたる」と発言し、翌一七日には、被告会社は、玄関前でのビラ配布を禁止する旨の貼り紙をした。

また、同月一九日には、原告組合員らが被告会社玄関前でビラを配布していたところ、被告勝浦が原告井手窪、原告塚口らにホースで水をかけ、また、原告組合員らがシュプレヒコールをあげようとすると二回(ママ)からバケツで水をかけたりした。同月二三日には、被告勝浦が原告井手窪の頭から水をかぶせるなどして、原告組合員らのビラ配布を妨害した。

8  原告組合員に対する班長としての仕事の取り上げ等の不利益取扱い(<証拠略>)

(一) 平成二年一〇月二七日、第一機械部門の係長であった被告勝浦が、同部門の第三班班長であった原告東條に対し、「もう日報書かんでもいいぞ。」と告げ、班長としての仕事をしないよう命じた。同原告が同月二九日、沢井部長に右指示の意味を問いただしたところ、同部長は、「考え方変えん奴には班長としての指示はできんのや。現場で働いとけ。」と述べ、同原告から班長としての仕事を取り上げた。

また、同月三〇日、沢井部長は同部門の第四班班長であつた逢坂組合員を呼び出し、「どうしても組合賛成か」と尋ね、同人が「賛成です」と答えると、「それなら明日から班長の仕事はしなくていい。」と告げ、逢坂組合員から班長としての仕事を取り上げた。

(二) 右同日、被告勝浦は、原告東條及び判田書記長に対し、「五時から三班の機械のペンキ剥がしをやれ。」と命じ、以後、第一機械部門においては、被告会社は、原告組合員を他の従業員と分離し、被告勝浦の指示のもとに、他の部署の応援や機械のペンキ剥がしの等(ママ)の仕事をさせることが多くなった。これらの仕事は、原告組合員はほぼ全員が命じられたにもかかわらず、非組合員は、一名又は二名が命じられるだけであった。

(三) また、同年一一月頃、原告組合員の残業札が撤去されたうえ、原告組合員が上司に残業をしたい旨申し出ても許可されず、原告組合員は事実上残業ができなくなった。その後、平成三年になって、残業札が廃止され、残業時間を残業表に記載する方式に変更された際にも、被告会社は原告組合員の名を残業表から削除した。

9  原告東條の解雇(<証拠・人証略>)

(一) 原告東條は、平成二年一〇月一三日の夕方頃、原告井手窪が解雇されたことを知ったことから、夕礼で挨拶するため食堂の前方に向かう被告広沢に対し、同人が原告東條の前を通った際、「不当だ。」と述べ、また、被告広沢が従業員に対し挨拶する直前に「あんまりおかしいんではないですか。」と発言して抗議した。しかし、原告東條は、その後は被告広沢の話が終わるまで発言しなかった。

(二) 被告広沢は、同年一一月二八日、「私は隠し事は嫌いだ。これからはすべてオープンに組合ニュースも食堂にすべて掲示していく。」と発言し、それ以降、被告会社は食堂に組合ニュースを掲示するようになったことから、同年一二月四日頃、原告東條は、「井手窪委員長を職場に戻せ」と記載された組合ニュース(増刊号)を右食堂に掲示した。

(三) 原告東條は、日曜日であった同年一二月二日、前記のとおり破壊されていた本件プレハブ建物を修理するため、判田書記長らとともに、守衛に連絡して許可を得た上で、裏口から被告会社の構内に立ち入り、本件プレハブ建物を修繕した。なお、被告会社構内に立ち入った者の中には、被告会社従業員以外の者も一名含まれていた。

(四) 被告会社は、同年一〇月末頃から、原告組合員らに機械のペンキ剥がしを命ずるようになったが、同年一一月八日頃、右作業を行っていた原告組合員らが、被告会社に対する抵抗の意思を表すため、「団結」という文字が浮かび上がるようにペンキを剥がした。これを知った被告岩井が、東條になぜこのようなことをしたのか尋ねたところ、同人は「こういうことをさせるからだ。」と答えた。

(五) 被告会社は、同年一二月二八日、原告東条が、<1>同年一〇月一三日の従業員集会において被告広沢が集会場に入るとき罵声を浴びせ、また、同被告の発言を妨害したこと、<2>同年一一月一八日、第一機械工場プレス機械を破損し会社に損害を与えたこと、<3>同年一二月四日、食堂に会社の許諾なくして「井手窪委員長を職場に戻せ」と掲示したこと、<4>同年一二月二日、会社工場内に不法に立ち入ったことを理由として、原告東條に対し、解雇する旨の意思表示をした。

なお、原告東條の解雇は、被告岩井が役員会で提案し、同被告が被告広沢に進言し、最終的には被告広沢が決定した。

(六) なお、原告東條は、平成三年一月九日頃、右解雇が無効であるとして、大阪地裁に地位保全の仮処分を申し立て、同年二月二二日、同地裁において、原告東條の従業員としての地位を仮に定め、被告会社に対し賃金の仮払いを命ずる内容の仮処分決定が出され、右決定は同年六月一七日の保全異議決定(その後の、被告会社の右決定に対する抗告も却下された。)においても基本的に維持されたが、被告会社は原告東條の就労を拒絶し続けた。

10  原告組合員に対する退職お願いの署名(<証拠略>)

平成三年一月一四日、被告安藤及び被告勝浦は、「会社再建のために退職してほしい」との趣旨が記載された「退職お願い」と題する書面を七枚作成し、勤務時間中である同日の午前中、本社事務所については被告勝浦が従業員を一人ずつ回って署名を集め、現場については被告安藤及び被告勝浦が、各部門の現場事務所に従業員を一人ずつ呼んで署名を集めた。また、被告安藤は、同日午後、加納工場に行き、同工場の北田課長の了解を得て同様に署名を集め、さらに同日新日本軽金属の工場に行き、同所の従業員からも署名を集め、同日の夕方頃、本社に戻った後、これを従業員のうち原告組合員であった者全員(原告塚口、奥野副委員長、判田書記長、東口組合員、山本組合員、浜口組合員及び逢坂組合員の七名)に提出した。なお、被告安藤及び被告勝浦は、このような行為をしたことにつき、被告会社から賃金カットを含む何らの処分も受けなかった。

11  原告組合員に対する不良報告書の作成要求と奥野副委員長及び判田書記長の配転(<証拠略>)

被告会社の第一機械部門においては、従前は不良を一〇枚以上発生させた場合にのみ不良報告書の提出を要求されるのが慣例となっていたが、被告会社は、平成三年二月頃以降、原告組合員についてのみ、作業中に一枚でも不良を発生させると、不良報告書の提出を求めるようになった。また、原告組合員の作業を後ろに立って監視したり、原告組合員が不良を出したときには、被告玉置や被告勝浦が現場を写真に撮るようになった。また。被告会社は、判田書記長及び奥野副委員長に対し、作業指示を行わず、同人らが指示を求めると、他部門の応援を指示するなどした。

さらに、同年四月二七日(四月三〇日付け)、被告会社は、第一機械部門から、奥野副委員長を第二機械部門に、判田書記長を第一溶接部門にそれぞれ配転し(以下「奥野らの配転」という。)、東口組合員を第二機械部門から第一機械部門に配転した。その結果、第一機械部門の原告組合員は、原告塚口、逢坂組合員及び東口組合員の三名となった。奥野副委員長は、第一機械部門ではプレス工として専門的作業に従事していたが、第二機械部門においては、従来は従業員のローテーションで行われていた単調な検査業務のみを命じられた。一方、第一機械部門において奥野副委員長と同様の作業に従事していた判田書記長は、第一溶接部門でもプレス工としての仕事が中心であったが、溶接作業を担当することもあった。

なお、同日付けで配転された者は合計一二名であったが、うち八名は同年一月の東部センターの工場閉鎖に伴い既に移(ママ)動していたものであって、現実に仕事の変化を伴う配転を受けたのは四名であり、うち三名が原告組合員であった。

12  入寮者に対する被告会社職制らの対応(<証拠・人証略>)

被告会社の寮には、平成二年一〇月当時、原告塚口及び浜口組合員を含め四名が居住していたが、同年一二月二〇日までに原告組合員を除く二名は退職に伴って退寮し、入寮者は前記原告組合員二名のみになっていたところ、同月二二日、淵上次長及び宮崎常務は、浜口組合員に対し、「お母さんから、お父さんが体が悪いと手紙が来ている。退職して帰ったほうがええんじゃないか。」と退職を勧め、さらに、同月二八日、岩井部長は、右両名に対し、年内に寮を閉鎖するので同年一二月三一日までに退寮するように命じた。

両名はこれに応じなかったところ、平成三年一月九日午後六時三〇分頃、被告岩井、岩井部長及び守衛が原告塚口の部屋に勝手に入り込み、部屋で集会を開いていた原告組合員らに対し、「部外者を勝手に入れるな。」等と述べ、部屋の中を写真撮影した。被告会社は、翌一月一〇日、同僚従業員等の寮への出入りを禁止する旨の警告書を寮に貼り出した、また、同日の勤務時間中、何者かが原告塚口及び浜口組合員の部屋の扉の鍵穴を壊し、原告塚口の部屋の扉の隙間に鉄板を打ち込み、戸の前につっかえ棒をして扉が開かないようにし、同原告が部屋に入れないようにした。これに対し、原告組合が被告岩井に対し善処を申し入れたところ、同被告は、「君たちがいつまでもこんなことをしているからだ。」と述べた。

さらに、同年一月二五日、昼休みに浜口組合員が寮の部屋で休んでいた際、岩井部長、被告玉置及び被告勝浦らが寮に立ち入り、部外者が来ていないかどうか調べた。また、同年三月二八日午後五時過ぎ頃、岩井部長、被告安藤、同玉置、同勝浦及び守衛らが立ち入り、「井手窪が来ただろう」と寮内をくまなく調べ回ったうえ、岩井部長が、原告塚口の部屋の中に立ち入り、押し入れの中まで調査した。

さらに、同年六月四日、被告会社は原告塚口及び浜口組合員が居住する部屋以外の寮の部屋を予告なしに解体し始めた。

13  原告組合員の慰安旅行への参加拒否(<証拠略>)

平成四年三月、被告会社において社員慰安旅行が企画されたが、その際なされた被告会社の服装に関する指示を、原告組合が組合ニュースで批判したことから、被告会社は、原告組合が服装に関する指示に従わなかったとして、原告組合員について、右旅行への参加を拒否した。

14  原告組合員らに対する賃上げ、一時金における差別的取扱い(<証拠略>)

(一) 平成二年の夏季一時金は、原告組合と被告会社との間の団体交渉に基づき、妥結額が支給されたが、被告広沢が社長に就任した後の同年年末一時金については、同年一二月一五日の団交において、被告会社は「出せる状態ではない。」として回答を拒否し、同月二八日、被告会社は、年末一時金を一方的に支給した。平成三年度夏季一時金については、被告会社は、原告組合と交渉することなく、同年七月一九日一方的に支給し、同年年末一時金については、団交において、「出せる状態ではない。」として回答を拒みつつ、同年一二月三〇日に一方的に支給した。平成四年度夏季一時金についても、被告会社は、原告組合と交渉することなく、同年八月一日これを一方的に支給した。

一方、平成三年度の賃上げについては、被告会社は、原告組合と交渉することなく、同年六月下旬頃一方的に発表し、同年四月に遡って実施した。平成四年後(ママ)の賃上げについても、被告会社は、原告組合と交渉することなく、同年六月下旬頃一方的に発表した。

(二) 平成二年の年末一時金、平成三年の夏季一時金の支給額を見ると、現場男子従業員全体の平均支給月数(支給額の合計を基本給の合計で除したもの)は、平成二年年末一時金は三・六二七か月、平成三年夏季一時金は三・八三八か月であったのに対し、原告組合員の平均支給月数は、それぞれ二・一七一か月及び二・三二五か月であった。また、平成三年度の賃上げ額を見ると、現場男子従業員全体の平均支給月数は〇・一八一か月であったのに対し、原告組合員の平均支給月数は〇・〇九一であった。

15  原告組合員に対する不良発生及び不良報告書提出拒否等を理由とした処分(<証拠・人証略>)

(一) 平成四年四月一六日、判田書記長は、過失により、アース板六枚について不良を発生させた際、被告会社から不良報告書の提出を求められ、同月二〇日に右報告書を提出したが、その間の経緯が不当だったとして、被告会社に抗議文を提出した。また、奥野副委員長が平成四年四月二四日ブレーキプレス用金型を過失により破損した際、被告会社が同人に不良報告書の提出を求めたのに対し、同人は、不良報告書の問題は団体交渉で話し合って決めるべきである旨述べてこれを拒否したところ、同月二五日、被告玉置は、奥野副委員長に対し、「不良報告書を書かない人には仕事を指示できない。みんなの作業をよく見て勉強して反省してください。」旨述べ、同人を事務所前に立たせ、仕事の指示を全くしなかった。

(二) 同月二三日、原告塚口は、日下部班長から、これまでに経験したことがなかった高度な読み取り技術を要する立体図を渡されてプレス作業を命じられ、同班長の指示に従って作業をしていたところ、穴開けの位置を誤り、二五八枚の不良を出した。同月二五日、原告塚口は、被告玉置、日下部班長、浜田班長及び石井班長らから不良報告書を提出するように求められたが、自分は日下部班長の指示に従って作業していただけである等として、これに従わなかった。

なお、被告会社は、原告塚口に対し、右不良発生を理由とする処分は行わなかった。

(三) 被告会社は、同年五月一二日、判田書記長に対し、平成四年四月一六日アース板加工につき不良を発生させたことにつき上司の指導に従わず抗議文を提出し、上司の指示に従わなかったことを理由に減給半日の懲戒処分をし、奥野副委員長に対し、<1>平成四年四月二四日ブレーキプレス用金型を破損したこと、<2>右事実につき報告書を提出しなかったこと、<3>前同日IC立方に当たり加工不良を発生させたにもかかわらず報告書を提出しなかったことを理由として減給一日の懲戒処分をした。原告組合は、右懲戒処分につき団交を申し入れたが、被告会社は応じなかった。

(四) その後も、被告会社は、奥野副委員長及び判田書記長に対し、次のとおり不良発生又は不良報告書の提出拒否等を理由として、懲戒処分を繰り返した。

ア 平成四年五月一五日、判田書記長は、過失によりキューピクル専用曲げレール金型を落とし、その下にあった金型に傷を付け、同月一九日及び二二日には、誤ってキューピクル天板又は外板の加工において不良を発生させたが、被告会社が不良報告書の提出を求めたのに対し、団体交渉による解決を求め、これを提出しなかったところ、被告会社は、同年五月二七日、判田書記長に対し、右各不良発生及びこれに対し報告書を提出しなかったこと並びに同月一二日の前記懲戒処分につき反省の色が見られないことを理由として、同月二八日を出勤停止とし賃金を支払わない旨の懲戒処分をした。

イ 同年六月五日、奥野副委員長は、社外工である椿某と共に窓ガラス及びサッシをパレットに詰め替える作業の応援を行っていた際、過失により窓ガラスを一枚破損させ、同月二四日には、KSA扉補強曲げ作業中、誤って一六枚の不良を発生させた。被告会社は、同年七月一日、奥野副委員長に対し、右の各事由に加え、不良の発見が本人の申出によるものではなかったこと、不良報告書の提出をしなかったこと及び同年五月一二日の前記懲戒処分につき反省の色が見られないことを理由として、始末書を取り同月二日を出勤停止とし賃金を支払わない旨の懲戒処分をした。なお、椿某は処分されなかった。

ウ 同年七月六日、判田書記長は、キューピクルコーナー柱曲げ作業において四〇枚の不良を発生させたため、これを川崎主任に報告しておいたところ、同日夕方頃、判田書記長が被告会社正門前で組合集会に参加していた際、香西課長が来て「不良を出したら報告せんか」等と言ったため、判田書記長は、同課長に対し、主任に報告してあるから明日話をすればよい旨述べて抗議した。同月八日、川崎主任が不良報告書の提出を求めたため、判田書記長は、同報告書を作成し、同月一三日朝、同報告書を一五日までに提出するよう指示した香西課長に対し、「今日の昼過ぎに出す。」旨伝えたが、同課長が昼間不在であったため提出することができないでいたところ、同日夕方頃、被告会社は、判田書記長に対し、前記不良を発生させたこと、不良原因を調査しようとした上司に対し暴言を吐いたこと及び不良報告書を提出しなかったことを理由として、始末書を取り同月一四日を出勤停止とし賃金を支払わない旨の懲戒処分をした。

エ 同年五月二八日、奥野副委員長は、SVW棚板曲げ不良を一枚発生させていたところ、同年七月六日、被告会社は、同人に対し、右不良発生について不良報告書の提出を求めたが、同人はこれを拒否した。被告会社は、同月二〇日、奥野副委員長に対し、右不良発生について不良報告書の提出を拒否したこと、並びに、同月一日及び二日、不良報告書提出についての上司の指導に対し、「やかましいわボケ」とか「ザコ!!向こうへ行け」などの暴言、侮辱を繰り返し、職場内の秩序を乱す行為があったことを理由として、同月二一日を出勤停止とし賃金を支払わない旨の懲戒処分をした。

オ 同年七月二七日、奥野副委員長は、SVS前桁曲げ加工中不良を一枚発生させ、これを作業報告書に記載しておいたところ、被告玉置から不良報告書の提出を求められたため、これをいったん拒否したが、同月二九日、「原因はあたりはずれです。不可抗力です。改善の方法は分かりません。いい方法があったら教えて下さい。」と記載した不良報告書を提出した。これに対し、被告会社は、同年八月一八日、奥野副委員長に対し、右不良発生につき所定のルールを守らず、上司の指導に反抗的な態度を取り、職務の執行を害したこと及び提出された不良報告書の記載に誠意がなく、会社所定の用紙でもないため改めるように指導したが指示に従わなかったことを理由に、譴責処分をした。

カ 同年八月一七日、判田書記長は、キューピクルND5扉曲げ不良を一枚発生させ、同月一九日報告書を提出したが、その際被告会社所定の用紙を使用しなかったところ、被告会社は、同月二七日、判田書記長に対し、右不良発生につき自らの報告を怠ったこと及び報告書が会社所定の用紙ではないため改めるよう指示したがその指示に従わなかったことを理由として、譴責処分をした。

16  本件協定の破棄及び組合活動を理由とした懲戒処分等(<証拠略>)

平成四年六月九日、被告会社は、原告組合に対し、事前に何らの説明を行うことなく、同年九月九日をもって本件協定を破棄することを予告した。原告組合はこれに抗議し、同年七月二日及び一三日に団交を申し入れたが、被告会社はこれに応じず、同年九月一〇日、会社玄関前に「労働協約は破棄されましたので、構内での組合活動は認められません。」と掲示した。同日、ビラを配布していた原告組合員を守衛が実力で排除し、それ以降、守衛室にビデオが設置され、ビラ配布の状況が監視され、原告組合員等がビラ配布すると、守衛がこれを禁止するようになった。また、会社構内において原告組合員らが集まって休息することについても、被告会社は、これが組合活動に当たるとして、禁止するようになった。

さらに、被告会社は、同年九月二八日、原告組合員らに対し、会社構内での組合活動は懲戒処分の対象となる旨警告する警告書を発したが、原告組合員らがこれを無視してビラの配布を続けたため、同年一〇月一二日、被告会社は、奥野副委員長、判田書記長及び浜口組合員の三名に対し、会社内で許可なく集会、ビラ配布を行い、注意に従わなかった等として、譴責処分をしたほか、これに対し原告組合が同月二一日から二三日にかけて、始業時間前に被告会社前駐車場付近において、外部支援者を交えて抗議集会を行ったところ、これを理由として奥野副委員長、判田書記長、浜口組合員及び原告塚口に対し、同月二六日から二九日にかけて、出勤停止一日の懲戒処分をした。

被告会社は、同年一〇月一六日、原告組合との団交に応じたものの、最終的な判決や命令が出るまでは話合いで解決するつもりはないとの立場に終始した。

また、被告会社は、平成五年二月一五日には、原告組合に対し、会社敷地内での組合活動は、就業時間外であっても会社の意思に反するものは懲戒処分の対象となる旨の警告書を発した。

17  グループ会社による提訴(<証拠略>)

広沢グループの構成企業であり、被告広沢が共同代表取締役の一人であるキング工業は、原告井手窪及びその指揮を受けた者らが、キング工業の本社がある広沢ビルに無断で立ち入り、写真撮影をしたり、シュプレヒコールを繰り返し、これにより業務が妨害され、又はその名誉・信用が侵害されたとして、平成四年六月三日、原告組合及び原告井手窪を被告として、一五〇万円の損害賠償を求める訴えを東京地裁に提起した。右訴訟については、平成五年九月六日、原告の請求を棄却する判決が言い渡され、その後、控訴審により控訴棄却の判決がなされ、右判決は、平成六年一〇月二八日、最高裁でキング工業の上告が棄却されて確定した。

また、広沢グループの構成企業であり、被告広沢が代表取締役である育良精機は、原告組合が、被告会社との労使問題に関連して、育良精機に対する情宣活動を企画したため、育良精機は予定していた展示会への出展を取りやめざるを得なくなり、その営業が妨害されたとして、平成五年一〇月二八日、原告組合を被告として、四二三万円余りの損害賠償を求める訴えを水戸地裁下妻支部に提起した。右訴訟は大阪地裁に移送され、平成七年九月二六日、同地裁において育良精機の請求を棄却する判決が言い渡され、平成八年六月二五日、大阪高裁において、育良精機の控訴が棄却された。

18  原告組合員に対する帰宅命令(<証拠略>)

平成四年一二月二日、原告組合員らは、有給休暇又は欠勤の届出を提出したうえで、東京における労働者の統一行動に参加したが、その翌日である同月三日、出勤した原告組合員らに対し、玄関で待っていた岩井部長が、「不都合だから仕事をしてもらっては困る。帰りなさい。」と告げ、「帰宅通知書」を手渡したうえ帰宅を命じ、何ら説明をしないまま会社の入り口を施錠し、原告組合員らに就労させず、被告会社は同日の賃金をカットした。同月五日に行われた団交において、原告組合が右帰宅命令の理由を問いただすと、被告会社は、「夜遅くまで東京で行動して朝帰ってきたので就業に不都合だと考えた。」旨説明した。被告会社は、平成五年二月一八日、同年四月二日、同年六月三〇日及び九月二二日にも、同様の理由で原告組合員に対し帰宅を命じ、賃金をカットした。

19  原告塚口に対する被告会社職制の対応及び同原告の解雇(<証拠・人証略>)

(一) 原告塚口に対する被告会社職制の対応

(1) 原告塚口に対しては、平成二年一〇月下旬頃、被告勝浦が、「井手窪の近くにいたら首にするぞ。」と言ったり、同月二六日には、就業中に、「組合員と話しとったな、月曜日から会社に来るな。」と言ったりしていたが、同原告が同月二九日に初めて原告組合のビラ配布に参加すると、その頃から、被告勝浦は、勤務時間中、原告塚口に対し、「豚、豚」等とののしったり、小突いたり、同原告が加工作業中の鉄板を蹴り上げる等の暴行を加えるようになった。また、この頃から、被告勝浦は、原告塚口から仕事の指示を求められても、「おまえは段取りなんかせんでもええ。」「おまえ、ここで立っとけ。」「おまえに与える仕事なぞない。」等と言い、仕事を与えないか、与えても掃除、ペンキ剥がし、ペンキ塗り等の仕事や、他の部門の応援をさせるようになった。

また、原告塚口は、平成二年一二月一七日、会社の忘年会の席上で、被告勝浦から突然顔面を殴られた。

原告塚口は、次第に同被告に仕事の指示を求めることに恐怖心を覚えるようになり、平成三年三月五日から四日連続で欠勤し、同年四月半ば頃まで欠勤を繰り返した。

(2) 平成三年五月一四日、被告玉置及び被告勝浦は、一枚の不良品を発見したとして、作業をしている原告塚口らの写真を撮影した。また、同月二〇日には、逃げる原告塚口に対し、被告勝浦がフォークリフトを突進させたのを始め、同月二一日には、原告塚口が作業服に名札を付けるのを忘れて作業をしていたところ、被告勝浦が、「塚口」と大書したB五判大の紙を原告塚口の背中に貼り付け、写真を撮影した。

(3) 原告塚口は、平成三年七月頃、体調を崩し、再び連続して欠勤するようになったが、同年八月頃、病院で検査を受けたところ、肝機能障害により静養が必要であるとの診断を受けたため、同年九月七日から同月一四日まで入院した。

原告塚口が退院の翌日出勤すると、被告会社は、同原告に対し、四日間にわたり、公衆浴場業者に払い下げる木枠の解体作業を命じた。これは、ハンマーを用いて木枠を解体する作業であり、重労働であった。

また、平成三年一一月頃から、被告会社は、原告塚口に対し、約三か月にわたり、五工場における塗装作業を断続的に命じた。右作業はシンナーを扱う作業であったが、被告会社が支給したマスクは粉塵用の紙マスクであってシンナーを防ぐには十分でなく、また、手袋も十分なものが支給されなかった。

(4) 被告会社は、原告塚口が平成四年四月二三日プレス作業中に二五八枚の不良を出して以降、同原告に対し、プレスの仕事はほとんど与えず、掃除、ボルトのねじ切り、グラインダーによる床面の鉄板剥がし作業等を命じるようになった。そして、被告会社は、同年五月一三日、同原告に対し、出勤状況が悪いことを理由に、譴責処分をし、同原告がこれに従って始末書を提出しないことを理由に、同月二〇日、二日間の出勤停止を命じ、その間の賃金を支払わない旨の懲戒処分をした。

原告塚口は、その頃より、不良発生に対する恐怖感、会社で何が待っているか分からないという気持ち及び体調の不良から、欠勤することが多くなったが、同年七月八日から連続して欠勤した際、病院で診断を受けたところ、気管支炎と診断された。原告塚口は、同月二二日に出勤したが、被告会社は、同原告に対し、再びシンナーを扱う塗装作業の応援を命じ、これを行った同原告は、脱水症状による腹部痙攣を起こして倒れ、救急車で病院に運ばれた。

その後、原告塚口は、不眠症に陥り、同年一〇月七日まで約二か月半の間連続して欠勤した。その間同人は、被告会社の守衛に対し、体調がすぐれないので欠勤する旨の連絡をしたことがあったが、その際岩井部長にかけ直すように言われても、電話をすると何を言われるか分からないという気持ちから、電話をかけることができなかった。なお、原告塚口は、同年九月三日には、不眠症につき加療を要する旨の医師の診断書を被告会社に提出した。

一方、寮で療養している原告塚口の部屋には、同年八月頃から同年九月にかけ、宮崎常務、岩井部長や広沢グループの関係者らが繰り返し訪れ、原告塚口はこれから逃れるため、原告組合が他に賃借していた組合事務所で休息をとることもあった。

(5) 同年一〇月八日から原告塚口は出社するようになったが、被告会社は、同年一一月頃から、原告塚口に対し、再びペンキ塗りや、他工場での応援作業を命じるようになり、同人は、本来の職場である第一機械工場から引き離された状態で作業することになった。また、同月頃から、被告安藤らは、再び原告組合に闘争積立金の返還を請求していたが、同時に、原告組合員個人に対しても、右返還を要求するようになり、平成五年一月以降は主として原告塚口に対し右要求を行うようになったため、原告塚口は、被告安藤及び牧浦係長らから、休憩時間中に闘争積立金の返還を繰り返し迫られるようになり、原告塚口が「それは組合執行部に言ってくれ。」と述べても、右要求は繰り返された。

その結果、原告塚口は、出勤することに恐怖感を覚えるようになったことや、身体の不調から、同月二三日から二七日までの間欠勤するなど、その後も欠勤が続くことがあり、平成四年七月二一日から平成五年七月二〇日までの一年間に、合計一一四日の欠勤をすることになった。

(二) 原告塚口の解雇

平成五年七月一三日頃、被告岩井、岩井部長及び宮崎常務は、相談のうえ、原告塚口を、欠勤日数が九〇日を超えたことを理由に解雇することとし、その旨田中取締役に対し上申し、最終的には被告広沢が原告塚口の解雇を決定し、被告会社は、同月二〇日、原告塚口に対し、解雇する旨の意思表示をした。

20  地労委命令、判決等に対する被告会社の対応等(<証拠・人証略>)

(一) 原告組合は、平成二年一一月一三日、原告井手窪の解雇、原告組合員に対する脱退勧奨及び組合費等の返還請求等の支配介入、組合事務所の破壊及び組合掲示板の撤去、ビラ配布の妨害並びに原告東條及び逢坂組合員の班長降格等が不当労働行為であるとして、大阪地労委に対し、不当労働行為救済申立てをし(以下「第一次救済申立て」という。)、平成三年一一月七日、原告東條の解雇、奥野副委員長及び判田書記長に対する配転命令並びに原告組合に対する一時金及び昇給における差別が不当労働行為であるとして、同地労委に対し、不当労働行為救済申立てをした(以下「第二次救済申立て」という。)。

平成五年二月一二日、大阪地労委は、第一次救済申立てにつき、被告会社に対し、原告井手窪の復職、組合事務所の提供、組合掲示板の設置、原告東條の班長降格の撤回及び団交応諾を命ずる旨の命令を発した(以下「第一次命令」という。)。しかしながら、被告会社は、これを履行せず、中労委に対し再審査の申立てをした。

(二) 同年八月三〇日、大阪地方裁判所において、原告井手窪及び原告東條の従業員としての地位の確認及び賃金の支払を命ずる旨の判決が出され、被告会社は、その直後、原告東條を仮に復職させたが、原告井手窪は復職させなかった。なお、被告会社は右判決に対し控訴したが、平成七年九月二七日、将来の賃金の支払を命ずる部分の一部分を除き右控訴が棄却された。次いで、平成六年七月二〇日付けで、第一次命令を基本的に維持する旨の中労委の命令が出され(以下「中労委命令」という。)、これを受けて、被告会社は、平成六年八月二五日、原告東條に対する解雇を撤回するとともに原告井手窪に対する解雇も撤回し、同月二九日から同人を復職させたが、その他の事項については命令を履行せず、東京地裁に中労委命令の取消を求める行政訴訟を提起した。しかし、平成七年九月一九日、東京地裁において、組合事務所の提供及び組合掲示板の設置を命ずる旨の緊急命令が出されたことから、被告会社は、同年一〇月二日の団交において、原告組合に対し、右行政訴訟の確定までの間、組合事務所としてプレハブ建物を提供すること及び組合掲示板を三カ所に設置することを合意し、同月一一日頃これらを提供及び設置した。右行政訴訟については、平成八年三月二八日、東京地裁において、被告会社の請求を棄却する旨の判決が出された。

なお、被告会社は、原告井手窪及び原告東條の解雇期間中の賃金について、各年度五〇〇〇円昇給したものとして取り扱っている。

(三) 第二次救済申立てについては、大阪地労委は、同年五月一七日付けで、被告会社による原告組合員の賃金差別を不当労働行為であるとし、原告東條、原告塚口、奥野副委員長、判田書記長及び浜口組合員について、平成二年年末一時金、平成三年度賃上げ及び平成三年度夏季一時金の額を是正するよう命ずる命令を発した。

二  以上の事実を前提に、以下検討する。

1  原告井手窪の解雇について

前記認定によれば、原告井手窪の解雇は、被告広沢の組合掲示板の撤去命令に対し、同原告が団体交渉による解決を求めたことを理由に行われたものであるところ、右のような原告井手窪の対応を解雇理由とすることができないことはいうまでもなく、被告広沢の社長就任後の言動を考えあわせると、右解雇は、原告組合を著しく嫌悪する被告広沢が、専ら原告組合及び原告井手窪に対し打撃を与えることを目的に行われたものであることが明らかであり、解雇権の濫用であり、かつ、労組法七条一号、三号の不当労働行為にも該当するというべきである。

なお、この点に関し、被告らは、被告会社は原告組合が恣に使用していた会社掲示板の移動を求めたに過ぎないと主張するが、前記認定のとおり、第一機械掲示板は、本件協定に基づき、原告組合が組合掲示板として利用していたことは明らかであり、また、被告会社がその撤去を求めていたことは、(証拠略)に照らし明らかであるから、被告らの主張は採用できない。

2  組合脱退署名の提出及び組合費等の返還請求について

前記認定によれば、組合脱退署名の提出及び組合費等の返還請求は、原告組合を嫌悪する被告広沢の意を受けた被告会社職制らによって、原告組合を弱体化させるため、組織的に行われたものと認められるから、原告組合の運営に対する支配介入であることは明らかであり、労組法七条三号の不当労働行為に該当する。

これに対し、被告らは、これらを被告会社が組織的に行ったことを争うが、田中本部長が各職場の係長らを集めたその日のうちに被告会社のほぼ全部門の従業員の署名が集められ、原告組合に提出されているのであって、これが田中本部長の指示をきっかけに行われたものであることが強く推認されること、被告勝浦らによる組合脱退署名の作成及び署名はすべて勤務時間内に行われ、かつ、被告会社の社用箋を用いて作成されているものもあること、第一機械部門の組合脱退署名には、組合員でなかった被告勝浦らの氏名が記載されているうえ、休業中の者の指名(ママ)も記載されており、化成品部門の組合脱退署名には、追記として、長期欠勤者は確認ができないため後日届け出る旨の記載があるなどの点から見て、これら組合脱退署名が各組合員の自発的意思に基づいて作成されたものであるとするには余りに不自然であること、(証拠略)によれば、脱退者名が被告広沢や沢井部長に報告されていたことが認められること等に照らせば、これが被告会社によって組織的かつ意図的に行われたものであることは明らかである。

また、組合費等の返還請求も、右組合脱退署名の署名集めと近接した時期に行われたもので、その態様も類似しており、沢井部長の被告安藤に対する言動とも考えあわせると、これも、前同様被告会社によって組織的かつ意図的に行われたものと認めるのが相当である。

3  組合掲示板の撤去及び本件プレハブ建物の破壊について

(一) 前記のとおり、第一機械掲示板は被告会社によって使用できなくされたものであること、被告会社は平成二年一〇月二四日いったん第一組立部門の組合掲示板を撤去したこと、同月二六日に一階トイレ横の掲示板が撤去された直後、同所には被告会社のポスターが貼付されていたこと及び被告会社の当時の原告組合に対する対応等を考慮すれば、組合掲示板の撤去は、被告広沢の意を受けた被告会社職制らによって組織的に行われたものと推認するのが相当である。

また、同年一一月一八日には被告勝浦が部下に指示して本件プレハブ建物にフォークリフトを突っ込ませていること(なお、この事実は原告塚口本人及び弁論の全趣旨によって認められ、これに反する証拠は採用できない。)、被告会社が本件プレハブ建物を破壊した者が誰であるか調査をした形跡がないこと、最終的には被告会社が原告組合に無断で本件プレハブ建物を撤去していること、その他当時の被告会社の原告組合に対する対応等を総合すれば、本件プレハブ建物の破壊は、被告会社により行われたものであることを容易に推認することができる。

(二) ところで、企業施設管理権を有する被告会社は、原告組合に対し、一般的に組合掲示板及び組合事務所等を供与する義務があるものでないことはいうまでもない。しかしながら、被告会社は、組合掲示板及び本件プレハブ建物を、労働協約としての性質を有する本件協定に基づいて供与しており、これらは原告組合の組合活動の拠点として利用されていたのであるから、右供与を打ち切るためには、原告組合の同意を得るか、又は施設管理上の必要性等の合理的な理由に基づき、団体交渉等の相当な手続を尽くしたうえで行うことを要すると解されるところ、被告会社による組合掲示板の撤去及び本件プレハブ建物の破壊は、原告組合に打診することもなく一方的に行われたものであり、また、被告会社に施設管理上の必要性も見当たらず、かえって、当時の被告会社の原告組合に対する対応に鑑みれば、これが原告組合を嫌悪する被告広沢の意を体した被告会社職制らによって、原告組合の組合活動を妨害し、もって原告組合を弱体化するため、組織的に行われたものであることは明らかであるから、原告組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法七条三号の不当労働行為に該当する。

4  被告会社職制らによるビラ配布の妨害について

被告会社の職制らが、正門前に立ち、原告組合員らの配布したビラを捨てさせたこと、その後も継続的に被告会社の職制らが多数正門前に立って原告組合員らのビラ配布を監視したこと、被告勝浦がビラの配布を行っている原告井手窪、同塚口らに対し放水したこと等は、いずれも、原告組合の正当な組合活動を妨害するために行われたことが明らかであり、また、多数の職制が右行為に参加していたこと及び被告広沢の平成三年一月一六日の言動に鑑みると、右は、被告広沢の意を体した被告会社職制らによって組織的に行われたものであることは明らかであるから、原告組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法七条三号の不当労働行為に該当する。

これに対し、証拠(<証拠略>)中には、被告会社職制らはラジオ体操のために並んでいただけであるとの趣旨の被告岩井及び被告勝浦の供述があるが、(証拠略)によれば、ラジオ体操は午前八時一〇分から開始されるにもかかわらず、被告会社職制らはその三〇分も前から正門前に参集していたこと、従前はラジオ体操に参加していなかった者も平成二年一〇月頃以降正門前に立つようになったことが認められることに照らし、信用できない。

5  原告組合員に対する不利益取扱い等について

(一) 原告東條及び逢坂組合員から班長としての仕事を取り上げたことは、前記認定によれば、専ら右両名が原告組合員であることのみを理由に行われたことが明らかであり、班長の地位にあるにもかかわらず原告組合員に止まっていた右両名に対し不利益な取扱いをし、もって原告組合の弱体化を図ろうとしたものであることが推認されるから、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

なお、被告らは、右両名に対し班長の手当は支給しており、班長を降格したものではないと主張する。確かに、掲記の証拠によれば、その後も右両名には班長としての手当が支給されていたことが認められるけれども、前記のとおり、仕事の上では班長としては取り扱われなくなったというのであるから、これが不利益取扱いに当たらないということはできない。

(二) 原告組合員に対し、他の部署の応援や機械のペンキ剥がしの仕事をさせたことは、原告組合員は全員がこれらの仕事を命じられたにもかかわらず、原告組合員以外のものが命じられるのは一名又は二名程度であったこと、被告会社によるこれらの行為が、原告東條及び逢坂組合員から班長としての仕事を取り上げた直後から始まっていることからすれば、これは、原告組合を嫌悪する被告広沢の意を体した被告会社職制らが、原告組合の弱体化を企図して、原告組合員らに仕事上不利益な取扱いをしたものであることが推認されるから、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当するというべきである。

(三) 原告組合員らの残業を認めなかったことは、前記認定によれば、被告会社が、原告組合の弱体化を図るため、原告組合員らに対し差別的取扱いをしたものであることが明らかであるから、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

6  原告東條の解雇について

(一) 被告会社の主張する原告東條の解雇理由(前記第二・一・4・(五)記載の<1>ないし<4>))(ママ)について検討する。

(1) 解雇理由<1>は、原告東條が、平成二年一〇月一三日の夕方頃、被告広沢に対し、「不当だ。」「あんまりおかしいんではないですか。」と発言して抗議したことを捉えて、「罵声を浴びせ被告広沢の発言を妨害した」と評価したものである。しかしながら、前記認定のとおり、原告東條は、被告広沢が発言を開始する前に二言抗議の言葉を述べただけであって、これをもって、被告広沢に罵声を浴びせたとは評価できず、また、同人の発言を妨害した事実も認められないから、解雇理由<1>は理由がない。

(2) 解雇理由<2>は、(証拠略)によれば、原告組合員らが、機械のペンキを剥がす際に「団結」という文字を浮かび上がらせたことをいうにすぎないところ、これが原告東條によって行われたことを示す証拠はなく、また、そもそもペンキを剥がす過程で文字を浮かび上がらせたとしても、それによって機械の機能が害されることもない以上、機械を破損したということはできないから、解雇理由<2>は理由がない。

(3) 解雇理由<3>は、原告東條が、食堂の壁面に無断で組合ニュース増刊号を張り出したというものであるが、右行為は、前記認定のとおり、被告広沢が「これからはすべてオープンに組合ニュースも食堂にすべて掲示していく。」と発言し、以後食堂の壁面に被告会社によって組合ニュースが張り出されていた状況において行われたもので、当時組合掲示板がすべて撤去されていたことを考えあわせると、原告東條の右行為を強く責めることはできず、これによって被告会社に業務上の障害等が発生したことを示す証拠もないのであるから、これをもって解雇理由とすることはできないというべきである。

(4) 解雇理由<4>は、そもそも守衛の許可を得たうえで平穏に会社構内に立ち入っているのであって、これをもって解雇理由とすることはできない。

(二) 以上のとおり、原告東條の解雇は解雇理由になり得ない事由を理由に行われたものであり、解雇権の濫用であって無効というべきである。のみならず、右解雇に至るまでの被告会社の原告組合員らに対する対応等に鑑みると、右解雇も、被告会社が、原告組合を敵視し、その活動に打撃を与えるために行った解雇であることは明らかであって、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当するというべきである。

7  退職お願い署名について

退職お願い署名は、当時被告会社に残っていた原告組合員七名全員を対象に行われたもので、直接には、署名集めは被告安藤及び被告勝浦によって行われたものであるが、前記認定のとおり、被告勝浦は、勤務時間中、沢井部長らのいる事務所で従業員を回って署名を集め、被告安藤及び被告勝浦は、同じく勤務時間中に、現場事務所に従業員を一人一人呼び、また、被告安藤は他の工場にまで出かけ、一日中署名集めを行っていたというのであり、しかも、これについて賃金カット等何らの処分も受けていないというのであって(なお、被告勝浦及び同安藤は、各本人尋問において、当日は有給休暇を取得したとの趣旨の供述をしているが、同人らの地労委における供述等に照らし到底信用できない。)、これが上司である被告玉置や沢井部長の関知しないところであったとは到底考えられず、被告会社によって組織的に行われた行為であると推認され、これを覆すに足りる証拠は存在しない。

そして、かかる行為は、原告組合員を退職させ、原告組合を壊滅することを企図して行われたものであることが明らかであり、原告組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法七条三号の不当労働行為に該当する。

8  不良報告書の作成要求及び奥野らの配転について

被告会社は、従来より不良を一〇枚以上発生させた場合に提出を要求していた不良報告書を、原告組合員に対してのみ、一枚でも発生させるとその提出を求めるようになり、さらに、原告組合員の作業を監視したり、写真に撮影したりしたというのであり、これは、原告組合員を他の従業員と差別し、不利益に取り扱うもので、労組法七条一号の不当労働行為に該当する。

また、奥野らの配転は、その合理的理由が全く明らかでなく(被告岩井の地労委における供述(<証拠略>)によっても、その合理的理由を見いだすことはできない。)、また、当時第一機械部門には幹部である奥野副委員長及び判田書記長を含め原告組合員が四名配属されていたこと、前記認定のとおり、奥野らの配転後第一機械部門において原告塚口に対する被告会社の職制らによる不利益取扱いが激化していることを考えあわせると、奥野らの配転は、当時原告組合員が集中していた第一機械部門から組合幹部であった奥野副委員長及び判田書記長を引き離すことによって、組合活動に打撃を与え、もって原告組合を弱体化させることを主たる目的としたものであることが推認され、右推認を覆すに足りる証拠はない。

したがって、奥野らの配転は、原告組合員を不利益に取り扱い、もって原告組合の運営に介入しようとしたものであって、労組法七条一号、三号に該当する不当労働行為である。

9  入寮者に対する被告会社職制らの対応について

平成二年一二月二八日に行われた被告会社による原告塚口らに対する退寮要求、その後に行われた原告塚口及び浜口組合員の部屋の扉の破壊等(なお、その行為者は明らかではないものの、被告会社による右両名に対する退寮要求に引き続いて行われたもので、勤務時間中の行為であり、被告会社が行為者を調査した形跡もないことに加え、原告組合の善処要請に対する被告岩井の発言をもあわせ考慮すれば、これが被告会社によって組織的に行われたものであることが推認される。)、これに引き続く被告会社職制らによる原告塚口ら寮生の生活に対する干渉及び寮の一部の破壊等は、被告会社が、当時退寮を求める必要性が特に認められないのにかかわらず、突然原告塚口及び浜口組合員に年末の三日以内の退寮を求め、右両名がこれに応じないと見るや、両名を退寮に追い込むため、種々の圧力をかけたものであることが明らかであり、右被告会社の一連の行為は、原告組合員を会社施設から追放し、もって原告組合の組合活動に打撃を与えるために行われたものと推認され、右推認を覆すに足りる証拠はない。したがって、右は原告組合員に対する不利益取扱い及び原告組合の運営に対する支配介入というべきであって、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

10  原告組合員の慰安旅行への参加拒否について

前記認定によれば、被告会社は、原告組合が組合ニュースで慰安旅行における服装の指示を批判したということだけを理由に、原告組合員全員について慰安旅行への参加を拒絶したというのであり、これは、原告組合員に対する明らかな不利益取扱いであり、また、当時の被告会社の原告組合に対する対応に鑑みると、原告組合を弱体化させることを目的としたものであることが推認されるから、右不利益取扱いは、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

11  原告組合員に対する賃上げ、一時金における差別的取扱いについて

前記認定のとおり、平成二年年末一時金、平成三年の賃上げ及び同年夏季一時金については、原告組合員と非組合員との間に顕著な差異があるところ、被告会社はこの差異について、合理的な説明をしないのみならず、かえって、地労委の審問期日において、被告岩井が、査定基準は全くなく、勘で査定したと供述している(<証拠略>)ように、被告会社においては極めて恣意的に査定が行われていたことが窺われること及び当時の被告会社の原告組合に対する敵対的行動をも考えあわせると、右差異は、原告組合を弱体化させるという意図のもとに行われていた原告組合員に対する差別によるものと推認され、右差別的取扱いは、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当するというべきである。なお、証拠(<証拠略>)によれば、岩井部長は、地労委の審問期日において、一時金及び賃上げ額については、一定の支給基準に査定率を掛けて算出していた旨供述しているけれども、右証拠によれば、右支給基準及び査定率は支給額から事後的に割り出したものに過ぎないことが明らかであるうえ、岩井部長は地労委では欠勤控除をしていると証言しているのに対し、中労委(<八証拠略>)では一転して、していないと証言するなど、一貫性もなく、さらに、その基準とするものも、多く欠勤した者の査定率が高くなるなどおよそ不合理なものであって、右供述をたやすく信用することはできない。

なお、原告らは、平成三年年末一時金、平成四年賃上げ及び同年夏季一時金についても、同様の差別的取扱いが行われた旨主張するが、これらを認めるに足りる証拠は存在しないから、原告らの右主張を認めることはできない。

12  原告組合員に対する不良発生及び不良報告書提出拒否等を理由とした処分について

(一) 平成四年五月一二日の奥野副委員長及び判田書記長に対する懲戒処分、同月二七日の判田書記長に対する懲戒処分及び同年七月一日の奥野副委員長に対する懲戒処分について

前記認定によれば、右各懲戒処分は、いずれも過失に基づく不良発生又は材料、金型等の破損につき、被告会社が不良報告書の提出を求めたのに対し、右両名がこれに抗議したこと、あるいは、団体交渉における解決を求めてその提出を拒否したことを理由に行われたものであるが、当時、原告組合に対し様々な不利益取扱いが行われ、特に不良報告書については、他の従業員の場合には問題とされない不良についても原告組合員にはその提出を要求されるような状況にあったことを考慮すると、右判田書記長及び奥野副委員長の対応も無理からぬものがあるといわざるを得ず、奥野副委員長とともに作業していた椿某が処分されていないことをも考慮すると、右両名に対し、減給又は出勤停止の懲戒処分をしたことは、重きに失し、著しく不合理であるといわざるを得ないから、右各懲戒処分は懲戒権を濫用したものというべきである。

(二) 平成四年七月一三日の判田書記長に対する懲戒処分について

前記認定によれば、右懲戒処分は、判田書記長の過失による四〇枚の不良発生について、同人が不良報告書を提出する旨明言していたにもかかわらず行われたものであり、また、懲戒事由として掲げられている暴言の事実についてはこれを認めるに足りる証拠はないから、懲戒事由が存在しないにもかかわらず行われたものというほかはない。

(三) 平成四年七月二〇日の奥野副委員長に対する懲戒処分について

右懲戒処分は、過失により不良を一枚発生させたことについて不良報告書を提出しないこと並びに同年七月一日及び二日に上司に対し暴言を吐き侮辱したことを理由にされたものであるが、不良を一枚発生させたときには、原告組合員に対してのみ不良報告書の提出が求められていた状況において、奥野副委員長がその提出を拒否したことを責めることはできず、また、上司に対する暴言の事実についてはこれを的確に認めるに足りる証拠はないから、これに対し出勤停止の懲戒処分をすることは、重きに失し、著しく不合理であって、懲戒権を濫用したものというべきである。

(四) 平成四年八月一八日の奥野副委員長に対する懲戒処分並びに同月二七日の判田書記長に対する懲戒処分について

前記認定によれば、右各懲戒処分は、いずれも過失により不良を一枚発生させたことについて、不良報告書を被告会社所定の用紙に記載しなかったこと等を理由としてされたものであり、その規律違反の程度は極めて軽微であり、これを理由に懲戒処分を行うことは、著しく相当性を欠き、懲戒権を濫用したものというべきである。

(五) 右一連の懲戒処分の不当労働行為性について

以上のとおり、右一連の懲戒処分は、いずれも重きに失するか、懲戒事由がないのに行われたものであり、短期間に原告組合の幹部であった奥野副委員長と判田書記長に懲戒処分が集中していること、当時被告会社は、本件協定の解約通告をするなど、原告組合に対する不快感をあらわにしてその活動を制限しようとしていたこと等に照らし、度重なる懲戒処分を行った被告会社の行為は、不良発生に藉口してことさらに原告組合員に対して不利益な取り扱いをし、もって原告組合の活動に打撃を与えるために行われたものであると推認するのが相当であるから、いずれも労組法七条一号、三号に該当する不当労働行為である。

なお、原告らは、原告塚口の二五八枚の不良発生が、被告会社によって仕組まれたものである旨主張するが、被告会社が故意に原告塚口の不良を発生させるよう仕組んだことを認めるに足りる証拠はないから、この点に関する原告らの主張は理由がない。

13  本件協定の破棄及び組合活動を理由とした懲戒処分等について

(一) 本件協定の破棄について

本件協定は、期間の定めのない労働協約と解されるところ、労組法一五条によれば、期間の定めのない労働協約は、一方当事者において、三か月間の予告期間をおいて自由に解約することができるものとされている。また、本件協定の中心的な内容である組合掲示板の設置、事業場内における組合活動の保障及び備品置場の供与等は、いずれも使用者による便宜供与としての性格を有するものであり、使用者がこれらの義務を負うものではなく、労働組合も当然に組合掲示板の設置等を求める権利を有するものではない。また、労働組合は、当然に企業施設を組合活動に利用できる権限を有するものではなく、使用者は、その利用を許さないことが使用者の施設管理権の濫用と認められる特段の事情がない限り、企業施設を組合活動に利用することを禁止することができるというべきである。

しかしながら、労働協約に基づき、労働組合が便宜供与を受け、これを組合活動の拠点としているような場合には、労働協約を解約してこれらの便宜供与を打ち切ることは、組合活動、ひいては労働組合の団結権に対する重大な打撃となることはいうまでもないから、使用者としては、まず団体交渉において労働組合と合意に達するよう努力すべきであり、仮に一方的に解約せざるを得ない場合においても、施設管理上の必要性等、何らかの合理的な理由に基づいてこれを行うことを要し、何ら合理的理由に基づくことなく、恣意的に行われた解約は、解約権の濫用として無効になると解すべきである。

これを本件について見るに、被告会社による本件協定の破棄については、本件全証拠によるもその必要性、合理性が認められず(なお、一部の証拠には、原告組合の組合活動によって被告会社の業務が妨害されたことを窺わせるがごとき部分があるが、にわかに信用できない。)、かえって、被告会社は、本件協定を破棄した後、原告組合員に対し、組合活動を理由とする懲戒処分を繰り返していること、被告広沢は、以前より原告組合に対し、前社長が締結した協定を守る気持ちはない旨発言しており、地労委の審問廷においても、「前の社長のもとで締結された協定を守る気持ちはない」旨明言していること(<証拠略>)、(人証略)は、本件協定の破棄が原告組合による会社構内の組合活動を封ずるために行ったものである旨証言していること等からすれば、被告会社は、専ら原告組合による会社構内における組合活動を封ずるという目的のためにのみ、本件協定を解約したことが推認され、前記のとおり被告会社は原告組合からの団交の申入れにも応じることなく一方的に本件協定を破棄したことをも考えあわせれば、被告会社による本件協定の破棄は、原告組合の正当な組合活動を封ずるため恣意的に行われたものであることは明らかであって、解約権を濫用したものであってその効力を有せず、かつ、原告組合の運営に対する支配介入に当たり、労組法七条三号の不当労働行為にも該当するというべきである。

(二) 組合活動を理由とする懲戒処分について

被告会社は、本件協定を破棄したことを理由に会社構内における一切の組合活動を無条件に禁止し、これに違反したことを理由に懲戒処分を繰り返したものであるところ、右のとおり、本件協定の破棄は効力を有しないのであるから、本件協定が破棄されたことを根拠として組合活動を禁止し、これに違反したことを理由として行われた前記各懲戒処分は、いずれも原告組合の正当な組合活動を妨害し、もって原告組合の弱体化を図ることを目的として行われたもので、懲戒権の濫用に当たるばかりでなく、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

14  グループ会社による提訴について

原告らは、右各提訴が専ら原告組合に過大な出費と労力を与えるために行われたもので、不当労働行為及び不法行為に該当する旨主張する。

確かに、前記認定によれば、キング工業及び育良精機は、いずれも被告広沢が代表取締役を務める会社であって、当時被告会社による原告組合に対する数々の敵対的行為が見られ、これが原告組合を嫌悪する被告広沢の意思に基づくものであったこと、キング工業の請求は理由がないことが確定し、育良精機の請求についても、一審及び控訴審においてともに退けられていることを考慮すれば、右各提訴も、その一環として、原告組合に経済的打撃を与え、その弱体化を図るために行われたものであると推認する余地がないではない。

しかしながら、訴の提起が不当労働行為又は不法行為となるためには、当該訴訟において提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的、法律的根拠を欠くものであり、かつ、提訴者がそのことを知りながら、又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起したなど、訴え(ママ)の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くと認められるときに限られるものと解すべきところ、右各提訴についてそのような事情が存在したことを認めるに足りる証拠はないから、右各提訴が不当労働行為又は不法行為であるとの原告らの主張は理由がない。

15  原告組合員に対する帰宅命令について

本件各帰宅命令は、就業規則上の根拠は見当たらないものの、賃金がカットされていることから、実質的には懲戒処分たる出勤停止処分に他ならないと解すべきところ、原告組合員が前日に東京における統一行動に参加して疲労しているという点以外にその理由は見あたらず、何ら懲戒事由が存在しないにもかかわらずされたもので、これらの処分は、原告組合員らの正当な組合活動を理由に就労及び賃金支払を拒否し、もって組合活動に打撃を与えることを目的として行われたものであることは明らかであるから、労組法七条一号、三号の不当労働行為に該当する。

16  原告塚口に対する被告会社職制の対応及び同原告の解雇について

(一) 原告塚口の解雇の効力について

(1) 被告会社の就業規則には、第二九条に、「勤務成績が著しく不良で一年を通じて自己欠勤が九〇日以上に及んだとき」には解雇する旨の規定がある。また、第三三条には、「業務外の傷病によって欠勤六か月以上にわたるとき」及び「家事の都合、その他やむを得ない事由で欠勤が引き続き三〇日以上に及んだとき」等には、休職とする旨の規定がある(<証拠略>)。

ところで、右「自己欠勤」(なお、被告会社は、「事故欠勤」という用語も用いているが、<証拠略>によれば、これは自己欠勤と同じ意味であることが認められるから、以下就業規則上の表記である「自己欠勤」で統一する。)について、被告会社は、有給休暇を除く欠勤であり、病気欠勤を含む趣旨であると主張する。しかしながら、就業規則第三三条において、病気欠勤の場合は、欠勤が六か月以上にわたるときには休職にする旨定められているのであるから、六か月に達しない九〇日で解雇するというのは同条との関係上不合理であるといわざるを得ず、自己欠勤には病気欠勤は含まれないと解すべきである。これは、病気による欠勤は、本人の帰責事由が少なく、他の事由の欠勤と同様に扱うことは酷であるから、かような差異を設けることに合理性があること、第三三条においても病気欠勤とそれ以外のやむを得ない事由による欠勤との間に休職に至る要件において差が設けられていることからも、根拠づけることができる。

これに対し、被告らは、第二九条の規定は連続して欠勤することが要件とされていないのに対し、第三三条の規定は連続して欠勤することが要件とされているのであり、第二九条に病気欠勤が含まれると解しても不合理ではない旨主張する。しかしながら、被告会社の就業規則を見ると、第三三条(ニ)、第三八条(4)(オ)、同条(6)(ハ)においては、「引き続き」又は「継続して」との文言が使用されているにもかかわらず、第三三条(イ)にはそのような文言が使用されていないことに鑑みると、第三三条(イ)が連続した欠勤のみを指していると解するのは不自然であるのみならず、仮に被告ら主張の解釈によると、例えば、病気欠勤が連続して六か月間に及んだときには休職扱いになるにもかかわらず、五か月間で回復すれば解雇されることになって、極めて不合理な結果をもたらすことになり、到底採用することはできない。また、(人証略)の供述中には、第三三条(イ)の規定は連続して診断書が提出されている場合にのみ適用されるかのように取れる部分があるが、そのような運用がされていたことを認めるに足りる証拠はなく、いずれにしても前記のような不合理な結果をもたらすことに変わりはないのであって、採用できない。

(2) 証拠(<人証略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告塚口の入社以来の出勤状況は以下のとおりであったことが認められる。

ア 原告塚口の入社以来の欠勤日数は、入社一年目(平成元年七月二一日ないし平成二年七月二〇日)が三〇日、入社二年目(平成二年七月二一日ないし平成三年七月二〇日)が四一日、入社三年目(平成三年七月二一日ないし平成四年七月二〇日)が七九日、入社五年目(平成四年七月二一日ないし平成五年七月二〇日)が一一四日であった。

イ 入社五年目の欠勤理由を見ると、身体不調によるものが五五日、風邪によるものが一五日、ストライキによるものが一五日、地労委、裁判所への出席又は組合業務によるものが六日、出勤停止又は帰宅通知によるものが六日、腹痛によるものが一日、無届欠勤が一六日となっている。

原告塚口は、平成四年七月二三日から同年一〇月七日まで、連続して五六日間欠勤しており、その理由は身体不調又は無届欠勤である。なお、風邪による欠勤一五日は、平成四年一二月二八日ないし三〇日、平成五年一月一八日、同年三月一五日及び一六日、同月二九日、同年四月六日ないし九日、同月三〇日、同年五月三一日ないし同年六月一日並びに同年六月二一日の欠勤である。

(3) 被告会社は、病気欠勤が自己欠勤に含まれるとする解釈を前提に、原告塚口の入社五年目の自己欠勤が九〇日以上に達し、就業規則第二九条(ハ)に該当する旨主張するところ、前記のとおり、病気欠勤は自己欠勤に含まれないと解すべきであるから、就業規則第二九条の要件を判断するに当たっては、欠勤日数のうち病気欠勤を差し引くべきである(ただし、被告会社の就業規則第二三条には、「病気欠勤が一週間を超える場合は、医師の診断書を提出しなければならない。」旨の規定がある(<証拠略>)ことから、一週間を超えて欠勤する場合に診断書が提出されないときは、一週間を超える部分については病気欠勤と見るべきではない。)。

また、被告会社による懲戒処分又は帰宅通知による欠勤は、これを解雇理由としての自己欠勤数に算入することは許されないことは明らかであり、また、ストライキによる欠勤も、それが違法なストライキであったことが立証されない限り、自己欠勤に算入することは許されないというべきである。

以上の見地から検討するに、原告塚口の風邪又は腹痛による一六日間の欠勤は、いずれも一週間以内の欠勤であって、診断書の提出が義務づけられている場合に当たらないから、病気欠勤と認めるべきである。また、前記のとおり懲戒処分又は帰宅通知による六日間の欠勤及びストライキによる一五日間の欠勤についても、自己欠勤に算入すべきではない(なお、原告塚口が違法なストライキを行った旨の主張立証はない。)。

したがって、入社五年目の原告塚口の自己欠勤日数は、多くとも七七日に過ぎないというべきであるから、就業規則第二九条の要件には該当せず、右を理由として行われた本件解雇は、無効である。

(二) 解雇に至るまでの原告塚口に対する被告会社の対応について

以上のとおり、原告塚口の本件解雇は、就業規則上の解雇の要件がない以上無効であるが、前記認定によれば、被告会社は、原告塚口が原告組合員であったことから、原告組合を嫌悪する被告広沢の意を体した被告会社職制、特に被告勝浦から、さまざまな仕事上の不利益取扱いを始め、暴力や嫌がらせを受けてきたことが認められ、また、同原告が寮に居住していたことから、被告会社による寮生活に対する種々の干渉も受けることになり、原告塚口の欠勤日数が、平成三年四月頃以降急激に増加しているのも、かかる嫌がらせや暴力等に耐えかねて体調を崩し、あるいは出勤意欲を失っていたことが主たる原因であったことが認められる。そして、これら被告会社による原告塚口に対する様々な嫌がらせは、専ら原告塚口が組合員であることを理由に行われたものといわざるを得ず、他の原告組合員に対する不利益取扱いと同様、原告組合を嫌悪する被告広沢の意を受けた被告会社職制によって、原告組合を弱体化させるために行われていたものというべきであるから、それ自体不当労働行為に該当するというべきであるうえ、かかる被告会社の行為を主たる原因とする欠勤を理由に行われた原告塚口の解雇は、同原告が原告組合員であることを理由に行われた不利益取扱いと評価すべきであり、解雇権の濫用に当たるほか、労組法七条一号、三号の不当労働行為にも該当するというべきである。

三  被告らの不法行為責任について

1  原告組合に対する不法行為責任

(一) 被告広沢の責任

被告広沢は、被告会社の代表取締役として、原告組合を敵視し、その活動に打撃を与えてこれを壊滅することを目的に行動し、その方針の下に被告会社職制を指揮したものであり、原告井手窪の解雇については直接的行為者であり、原告東條及び原告塚口の解雇の最終決定を行った者であるのみならず、一連の行為が、原告組合を嫌悪する被告広沢の直接・間接の意思に基づいて行われていたことは明らかであるところ、右一連の行為は、原告組合及びその組合員に対し、組織的かつ意図的に行われたものであって、その行為の態様は極めて悪質かつ執拗で、しかも露骨なものであり、その期間は平成二年一〇月から現在に至るまでの長期にわたっており、また、地労委の命令や裁判所の判決において不当労働行為である旨の認定を受けてもこれに従わず、なおも、原告組合に対する不当労働行為を執拗に繰り返してきたものであるから、同被告は、原告組合に対し、被告会社を除くその余の被告らとともに、民法七〇九条及び同条(ママ)七一九条により不法行為責任を負うというべきである。

(二) 被告岩井の責任

被告岩井は、被告広沢の推進する組合敵視政策の一環として、原告井手窪の就労を実力で排除し、原告東條及び原告塚口の解雇を提案し、原告塚口の寮の部屋に無断で立ち入るなど、一連の行為に直接的に深くかかわっていたほか、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、奥野副委員長及び判田書記長の配転の実質的決定者であること、原告組合員に対する賃金差別においてもその査定の中心的役割を果たしていたこと等が認められ、同被告は被告会社の現場における最高責任者であったことが窺われるうえ、同被告は被告会社の取締役であり、その違法行為につき悪意又は重過失があったことは明らかであるから、同被告は、原告組合に対し、被告会社を除くその余の被告らとともに、民法七〇九条、七一九条ないし商法二六六条の三に基づき、不法行為責任を負うというべきである。

(三) 被告玉置の責任

被告玉置は、被告広沢の推進する組合敵視政策の一環として、組合掲示板の撤去、ビラ配布の妨害及び第一機械部門における原告組合員に対する不利益取扱い等に直接関与していたほか、被告安藤及び同勝浦の上司として、右両被告の違法行為を積極的に容認していたものと推認されるから、被告玉置は、原告組合に対し、被告会社を除くその余の被告らとともに、民法七〇九条及び同法七一九条により、不法行為責任を負うというべきである。

(四) 被告安藤の責任

被告安藤は、被告広沢の推進する組合敵視政策の一環として、組合脱退署名及び組合費等の返還請求書の作成、ビラ配布の妨害、原告組合員に対する退職お願い署名の作成、原告塚口に対する積立闘争金の返還請求等にいずれも直接関与し、被告会社の手足として、原告組合に対する不法行為の実行行為を担当した人物であり、その行為の態様に鑑みると、自らも、積極的に原告組合嫌悪の意思を有し、その意思に従って右各行為を行っていたことは明らかであり、単に上司の命令に従っていただけであるとは到底いえないから、原告組合に対し、被告会社を除くその余の被告らとともに、民法七〇九条及び同法七一九条により、不法行為責任を負うというべきである。

(五) 被告勝浦の責任

被告勝浦は、被告広沢の推進する組合敵視政策の一環として、組合脱退署名の作成、組合掲示板の撤去、本件プレハブ建物の破壊及び撤去、ビラ配布の妨害、第一機械部門における原告組合員らに対する不利益取扱い並びに原告組合員に対する退職お願い署名の作成等にいずれも直接関与し、被告会社の手足として原告組合に対する不法行為の実行行為を担当した人物であり、その行為の態様に鑑みると、自らも、積極的に原告組合嫌悪の意思を有し、その意思に従って右各行為を行っていたことは明らかであり、単に上司の命令に従っていただけであるとは到底いえないから、原告組合に対し、被告会社を除くその余の被告らとともに、民法七〇九条及び同法七一九条により、不法行為責任を負うというべきである。

(六) 被告会社の責任

以上のとおり、被告会社代表者の被告広沢及びその余の被告らによって原告組合及びその組合員に対してなされた一連の行為は、不法行為を構成するので、被告会社は、民法四四条ないし同法七一五条により、不法行為責任を免れないというべきである。そして、被告会社とその余の被告らとの関係は、不真正連帯債務の関係にあるということができる。

2  原告井手窪に対する不法行為責任

原告井手窪の解雇は、被告広沢により、同原告に対する明確な加害の意思をもって、極めて恣意的に行われたもので、不当労働行為であるに止まらず、原告井手窪の人格権又は労働基本権を侵害する不法行為を構成するというべきであるから、被告広沢は、原告井手窪に対し、民法七〇九条の不法行為責任を負い、被告会社は、民法四四条により、同じく不法行為責任を負うというべきである。

3  原告東條に対する不法行為責任

原告東條から班長としての仕事を取り上げたこと、原告東條を解雇したことは、いずれも、同原告に対する明確な加害の意思をもって行われたものであることが明らかであり、右は、不当労働行為であるに止まらず、同原告の人格権又は労働基本権を侵害する不法行為を構成するというべきであるから、原告東條の解雇を最終的に決定した被告広沢は、原告東條に対し、民法七〇九条の不法行為責任を負い、また、被告会社は、民法四四条により、同じく不法行為責任を負うというべきである。

4  原告塚口に対する不法行為責任

原告塚口に対する仕事上の様々な不利益取扱い及び同原告の解雇は、不利益取扱いが同原告に対する明確な加害の意思のもとに長期にわたり執拗に繰り返されたものであること、解雇が就業規則の要件を満たさないにもかかわらず、恣意的に行われたものであることに鑑みると、不当労働行為であるに止まらず、同原告の人格権又は労働基本権を侵害する不法行為を構成するというべきであるから、原告塚口に対する不利益取扱いの主たる実行者であった被告勝浦及び原告塚口の解雇を最終的に決定した被告広沢は、同原告に対し、民法七〇九条の不法行為責任を負い、被告会社は、民法四四条により、同じく不法行為責任を負うというべきである。

四  原告塚口の賃金請求について

前述したとおり、原告塚口の解雇は無効であるから、同原告は被告会社に対し労働契約上の権利を有する地位にあり、被告会社は同原告の就労を拒絶しているから、同原告は、被告会社に対し、賃金請求権を有するところ、証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、原告塚口の解雇直前の賃金額は、基本給八万〇六〇〇円、調整給五万一九四〇円の合計一三万二五四〇円であり、賃金支給日は毎月二六日であったことが認められる。なお、右証拠によれば、原告塚口は、解雇されるまでの間、相当額の欠勤控除を受けていたことが認められるが、前記のとおり、原告塚口の欠勤は、被告会社による原告組合及び原告塚口に対する不法行為と密接な関連を有するものであり、原告塚口の賃金額を定めるに当たり考慮すべきではない。一方、原告塚口の主張する皆勤手当六〇〇〇円については、当該期間中欠勤せずに勤務して初めて支給される金員であると解されるから、原告塚口の賃金に当然含まれると解することはできない。

なお、原告塚口は、平成三年度の昇給における差別的取扱いを根拠に、非組合員たる従業員の昇給率(昇給額を基本給で除したもの)の平均値を、原告塚口の昇給率と見るべきであると主張するが、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社の従業員の年齢、勤続年数は多様であり、昇給率も一定ではないのであるから、原告塚口の昇給率が非組合員の昇給率の平均に等しいと解すべき根拠はなく、この点に関する原告塚口の主張は採用できない。

さらに、原告塚口は、一時金の請求もするが、原告塚口の主張する夏季及び年末の各一時金の額は、(証拠略)によれば、平成三年度夏季一時金及び平成二年度年末一時金における非組合員たる従業員の平均支給月数を、原告塚口の当時の基本給に乗じ、さらに一定の欠勤控除をした額であると解される。確かに、平成二年度年末一時金及び平成三年度夏季一時金の支給額においては、原告組合員と非組合員との間に顕著な差異が存在し、これが不当労働行為によるものと解すべきことは、前記のとおりである。しかしながら、(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告会社の従業員の年齢、勤続年数は多様であり、一時金の支給月数も一定ではないのであるから、原告塚口の一時金の支給月数が非組合員の平均支給月数に等しいと解すべき根拠はないのみならず、それが平成三年度以降も原告塚口に支給されるべきであるとする根拠も見いだすことができないから、原告塚口の主張は理由がない。

したがって、原告塚口は、被告会社に対し、平成五年七月二一日以降毎月二六日限り一三万二五四〇円の賃金の限度でこれを請求する権利を有する。

五  損害について

1  原告組合の損害について

(一) 組合事務所の賃料について

原告組合は、他に賃借した組合事務所の賃料を損害として請求する。そして、(証拠略)によれば、原告組合は、被告会社によって本件プレハブ建物が破壊されたことにより、その活動の拠点を失い、平成三年二月から他に部屋を賃借したことが認められる。しかしながら、もともと被告会社による本件プレハブ建物の提供は便宜供与に過ぎないもので、原告組合の団結権等から当然にその供与を求める権限が導かれるものではないのであるから、他に部屋を賃借したことによる支出は、直ちに被告らの不法行為と相当因果関係のある損害とは認めることができず、原告組合が事実上その活動拠点を失ったことにより被った損害は、むしろ原告組合の被った無形の損害の一つとして考慮するのが相当であると考えられる。したがって、原告組合の主張は理由がない。

(二) 組合員の脱退による組合費の喪失について

原告組合は、原告組合員が脱退したのは、被告らの不法行為によるものであるとして、脱退した組合員が平成五年九月までに収めるべきであって(ママ)組合費相当額を損害として請求する。確かに、前記認定によれば、原告組合員は、平成二年八月頃には一〇四名を数えたにもかかわらず、平成三年一月頃には、七名に減少しているのであって、右のような原告組合員の急激な減少は、被告らによる一連の不法行為がなければ生じ得なかったものであることは、たやすく推認できるところである。しかしながら、組合員の脱退がすべて被告らの不法行為と因果関係があることを認めるに足りる証拠はなく、また、原告組合の主張するように、被告らの不法行為がなければ、平成二年八月当時の組合員がすべて平成五年九月まで原告組合員であり続けたと認めるべき根拠もないのであるから、原告組合が喪失した組合費相当額のうち、被告らの不法行為と相当因果関係を有する部分を特定することは不可能であるといわざるを得ない、したがって、被告らの不法行為により組合員が減少したことによる損害は、むしろ原告組合の被った無形の損害の一つとして考慮するのが相当であるから、原告組合の主張は理由がない。

(三) 係争を余儀なくされたことによる損害について

原告組合は、労働委員会への申立て、裁判所への提訴等に要した費用が損害に当たると主張するが、それらの費用のすべてが、被告らの不法行為の必然的な結果であるとはいえない以上、これを直ちに被告らの不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできず、原告組合が事実上被告会社との係争等を余儀なくされたことによる損害は、むしろ原告組合の被った無形の損害の一つとして考慮するのが相当であるから、原告組合の主張は理由がない。

(四) 被告会社との交渉を実現するために要した費用について

原告組合は、被告広沢が東京近辺に在住していることから、交渉のために東京に赴く必要があり、そのために要した費用が損害である旨主張する。しかしながら、被告会社が平成四年及び五年当時原告組合との団交を拒絶していたということだけで、原告組合が被告代表者に面会するため東京に赴いた費用を、被告らの不法行為と相当因果関係のある損害と認めることはできないから、原告組合の主張は理由がない。

(五) 無形の損害について

原告組合は、相当の長期間にわたる被告らの前記認定の不法行為により、被告会社内における活動拠点及び意思表明の手段を失い、さらに組合員数の急激な減少を来したのみならず、地労委の命令にも従わない被告会社の不誠実な対応により、長年にわたる地労委、裁判所等における係争等を余儀なくされたのであって、労働組合として活動することが事実上不可能な状況になっているということができ、その被った損害は大きなものがあったと認められる。そして、右損害は、いわゆる無形の損害というべきであるが、これを具体的に確定しえない以上、右損害額は控えめに見積もるのが相当であるところ、被告らによる不法行為が、原告組合の壊滅を目的として、組織的かつ意図的に行われたものであって、その態様も極めて悪質かつ執拗で、露骨であること、一方、現在では被告会社は一応組合事務所及び組合掲示板を設置するに至っていることその他本件の一切の事情を考慮するとき、その額は五〇〇万円が相当である。

(六) 弁護士費用について

被告らの不法行為と相当因果関係のある弁護士費用の額は、五〇万円が相当である。

2  原告井手窪の損害

原告井手窪は、被告広沢らの前記認定の不法行為により被告会社を解雇され、平成二年一〇月から平成六年八月までの四年余りの長期間にわたり就労を拒否されたことに鑑みると、その被った精神的苦痛は大きなものであったことが認められること、一方、原告井手窪は現在では復職していること、その他本件の一切の事情を考慮するとき、その精神的苦痛に対する慰謝料は、一〇〇万円が相当である。

3  原告東條の損害

原告東條は、前記認定の不法行為により、平成二年一〇月班長としての仕事を取り上げられ、さらに、同年一二月には被告会社を解雇され、平成三年一月から平成五年八月までの二年八か月にわたり、就労を拒否されたこと等に鑑みると、その被った精神的苦痛は大きなものであったことが認められること、一方、原告東條は、現在では復職していること、その他本件の一切の事情を考慮するとき、その精神的苦痛に対する慰謝料は、一〇〇万円が相当である。

4  原告塚口の損害

原告塚口は、平成二年一〇月頃以降平成五年七月頃に至るまでの間、被告勝浦を主とする被告らから、日常的に罵声を浴びせられたり暴行を受ける等の嫌がらせを受けたほか、本来のプレス工としての仕事を与えられず、他部門の応援や雑用を命じられ、そのうえ寮生活にもしばしば介入を受けたうえ、解雇され、現在まで就労を拒絶されているのであり、その被った精神的苦痛は大きなものであったことが認められること、その他本件の一切の事情を考慮するとき、その精神的苦痛に対する慰謝料は、一二〇万円が相当である。

六  被告会社の原告塚口に対する本件建物の明渡請求について

前記のとおり被告会社の原告塚口に対する解雇は無効であって、原告塚口は被告会社の従業員たる地位を有するので、被告会社の原告塚口に対する本件建物の明渡請求は根拠を欠くということができる。

七  結論

以上のとおりであるから、原告らの請求のうち、原告塚口の請求は、被告会社に対し、労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び平成五年七月二一日以降、毎月二六日限り、一三万二五四〇円及び右金員に対する各支払期日の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、被告会社、被告広沢及び被告勝浦に対し、連帯して一二〇万円及びこれに対する被告会社及び被告勝浦は平成五年一〇年三〇日から、被告広沢は同月三一日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があり、また、原告組合の請求は、被告らに対し、連帯して、五五〇万円及びこれに対する被告会社、被告玉置及び被告勝浦は平成五年一〇年三〇日から、被告広沢及び被告岩井は同月三一日から、被告安藤は同年一一月一日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、原告井手窪及び原告東條の各請求は、被告会社及び被告広沢に対し、連帯して、各一〇〇万円及びこれに対する被告会社は平成五年一〇年三〇日から、被告広沢は同月三一日から、それぞれ支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の、各支払を求める限度で理由があるので、これを認容し、原告らのその余の請求はいずれも理由がないのでこれを棄却し、被告会社の原告塚口に対する請求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 中路義彦 裁判官 谷口安史 裁判官 仙波啓孝)

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